【著者に訊け】若竹千佐子さん/『おらおらでひとりいぐも』/河出書房新社/1296円
【本の内容】
〈周造、逝ってしまった、おらを残して/周造、どごさ、逝った、おらを残して/うそだべうそだべだれがうそだどいってけろあやはあぶあぶぶぶぶぶ〉。突然愛する夫を亡くした桃子さん73才の頭の中を駆け巡る悲しみと、その先に見出した新たな老いの境地──孤独という自由が、伸びやかな東北弁で、饒舌に語られる。タイトルは、岩手が生んだ国民作家、宮沢賢治の「永訣の朝」の一節から。
63歳で文藝賞を受賞。遅咲きの新人作家のデビュー作『おらおらでひとりいぐも』は芥川賞も受賞、50万部を超えるベストセラーになり世代を超えて読まれている。
「ほんとに信じられないです。周りがみんな退職して、これからは、ゆるゆるやろうというところで、やっと私は日の目を見ました(笑い)。こんなに大勢が読んでくださるなんて思ってもみなかったので、作者冥利につきます」
たくさんの取材を受け、日本記者クラブで会見もした。憧れの作家町田康さんと対談、「ゴロウ・デラックス」にも出演した。「テレビ局のスタジオでマツコ・デラックスとすれ違ったんですよ」と少しうれしそう。
小説の主人公は、74歳の桃子さん。若竹さんより少し年上だが、岩手出身の専業主婦で、夫に先立たれ、首都圏郊外の一軒家で一人暮らしをしているところは同じ。東北弁をまじえて語られる桃子さんの胸のうちは、最初はぼけ始めた老女かと思わせて、意外に複雑で、思索的でもある。
「これは私の人間観なんですけど、一人の人間は、いろんな要素が複雑にからみあってできてるんじゃないかと思うんです。矛盾するところもあるし、どんどん変わっていく。そういう複雑なものの共同体として一人の人間を書いてみたかったんです」
外からは孤独に見えても内側ではいろんな会話が飛び交い、驚くほど豊かな世界が展開する。
「夫が突然、亡くなったとき、私はこれからどうしたらいいんだろうと思いました。でも、人間って本当の危機のときは、自分を励ます、『大丈夫だ』って声が聞こえてくるんですよ。夫が亡くなって本当に悲しいんだけど、悲しみの中にもいろんな感情がある。そういう、わかったことの一つひとつを小説に書いてみたかった」
小説を書きたい、という少女のころからの夢をずっと持ち続け、あきらめることはなかった。
「私は何ごとにも執着しない人間なんですけど、小説を書くんだ、というのはずっと思い続けた。どの言葉を選ぶか、どう場面を組み立てるか、すべてが面白くて書くことに飽きることはなかったです」
■撮影/藤岡雅樹、取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2018年4月26日号