「城めぐり」、「御朱印集め」、「日本刀」……ここ数年、日本史ブームが様々な形で起こっている。最近は、メジャーな武将が登場しない「応仁の乱」を描いた新書がベストセラーとなるなど日本史ブームは深化しつつある。
テレビや出版界では「歴史もの」が花盛りだ。NHKでは『歴史秘話ヒストリア』(総合)、『知恵泉(ちえいず)』(Eテレ)、『英雄たちの選択』、『偉人たちの健康診断』(いずれもBSプレミアム)がレギュラー放送され、民放でも特番などで日本史が取り上げられることが多い。
出版界に目を移すと、2017年には日本史学者の呉座勇一氏による『応仁の乱』(中公新書。刊行は2016年)がベストセラーになった。これまでは戦国時代や幕末維新の時代の人気が高かったが、“地味な歴史”を描いた作品にも読者の関心が集まっている。
こうした歴史ブームを支えているのが、若手の歴史研究者たちだ。『応仁の乱』の呉座氏は1980年生まれで、現在30代の若手研究者。わかりやすく歴史の面白さを伝えてくれる書き手の一人だ。同じように、歴史家・磯田道史氏(47)の『日本史の内幕』(中公新書)や、日本中世史が専門の本郷和人氏(57)による『日本史のツボ』(文春新書)なども、広く読まれている。
日本の歴史英雄たちの人間味あふれる失敗談などを集めた『ざんねんな日本史』(小学館新書)を上梓したばかりの歴史作家・島崎晋氏は、昨今の歴史ブームを支える若手研究者の活躍をこう見る。
「かつては研究者が一般向けに歴史の本を書くなど、邪道扱いされていました。アカデミズムの世界では、知名度があることは、むしろ『恥』と捉える風潮すらあった。最近はそれが様変わりした印象です。一般向けに歴史の面白さ、楽しさを伝えることも研究者の大事な役割として認知されるようになりました」
そうした変化は、歓迎すべきものだという。島崎氏が続ける。
「偉い大学の先生が『教えてやる』という上から目線で歴史を解説したり、研究者が専門用語を駆使して難しいことを言ったりすれば、知識のない一般読者からは敬遠されるでしょう。一方、わかりやすい言葉や親しみやすい態度で専門家が語ってくれれば、歴史そのものを身近に感じることができる。
拙著『ざんねんな日本史』でも指摘した通り、学校の授業や受験勉強で『日本史嫌い』になる人は、暗記中心の無味乾燥な内容に嫌気がさしてしまった人が多いと思います。しかし、生身の人間である我々の先祖が歩んできた足跡である日本史が、面白くないはずはない。欠点や失敗まで含めた英雄たちの人間臭さを知ってこそ、歴史の魅力に触れられるのではないでしょうか」
島崎氏の著書は、例えば西郷隆盛が西南戦争で敗北した一因として風土病による陰嚢肥大に悩まされていたことや、勇壮なイメージがある武田騎馬軍団の馬が実は“ポニー並み”の大きさであったことなどが指摘され、教科書では学べなかった歴史の側面が浮き彫りになっている。
歴史研究は日進月歩で、すでによく知られた事件や人物に関しても、毎年のように新発見が報じられたり、専門家による新解釈が公表されたりしている。より身近になった「日本史」から、自分なりの発見や解釈を試みてみるのも歴史の愉しみ方かも知れない。