【著者に訊け】小山田浩子氏/『庭』/新潮社/1700円+税
カメラマンがふと言った。
「ふだん水仕事もするけど、娘さんに触れるからかガサガサもしていない、むにょむにょした手の人でした」
筆者の印象は目だ。広島近郊の海や山に程近い町に住み、家事や子育ての傍ら執筆を続ける芥川賞作家・小山田浩子氏(34)は、その澄んだ瞳で人や自然の営みをあるがままに見つめる。
最新刊『庭』は、「妊娠中に書いた2013年の『うらぎゅう』から、そのときの娘が4歳になる今年一月の『家グモ』まで」、全15編を時系列順に編んだ初の短編集。氏はクモや蟻、犬や苔といった身近な動植物の生態に目を凝らす。そしてそのまま視線を隣に移すと、人間たちは噂や迷信を信じたり、人を産む・産まないで分別してみたりしていた。人間とはつくづく面倒でおかしな生き物だ。それでいて一方的な自然賛美とも一線を画す本書は、人の愚かさもまた多様性の一つに置くような、いのち全般の肯定の書でもあった。
2010年の初小説「工場」や芥川賞受賞作「穴」でも、その抽象画を思わせる筆力を高く評価された小山田氏。本書は特に短編集とあって、一作一作、より高い精度や凄味すら感じさせる。