〈だいたい、私、若気の過ちを通過していない人間を信用しない性質なんで。〉──これは女性セブン連載「日々甘露苦露」をまとめた山田詠美さんの最新エッセイ集『吉祥寺デイズ うまうま食べもの・うしうしゴシップ』の一節(「恋の至極はスキャンダル」より)。
4月4日、朝日新聞の看板連載「折々のことば」で、冒頭の言葉が取り上げられた。これは、哲学者の鷲田清一さんがさまざまなジャンルから心に響いた言葉を掬い取るもので、鷲田さんはこの言葉について、こんな思索をめぐらせた。
〈背伸び、分不相応、勘違いこそ若い時の特権だ。その抵抗はもちろん過ちと紙一重。だが、バランスを崩してでも体を張るという経験をしたことがない人は、いざという時、身をすぼめるだけ〉
それは恋愛においてもまた然り。ベッキーと「ゲスの極み乙女。」の川谷絵音の一件以来、続発した不倫スキャンダルを糾弾する風潮について、詠美さんは同じ一編で、こう疑問を呈している。
〈自らの内にある恋の倫理と婚姻関係の正当性が必ずしも結び付く必要なんてない! そう思って、私などは、恋愛小説を書き続けて来たのですが。そもそも色恋の悦楽って、倫理から、どうしても逸脱してしまうままならなさにあるのでは?〉
〈犯罪にならない不道徳は、世の中を彩る……こともある筈です。恋の至極は忍ぶ恋。でも、色に出にけりでもある。そのことを第三者はおもしろがりこそせよ、糾弾するのは不粋というもの〉
窮屈さを感じている人も多いのだろう。詠美さんの言葉には、共感の声が編集部に続々と届いている。
3月31日に放送された『王様のブランチ』(TBS系)では、BOOKランキングの第4位にランクインした。
〈夫婦での旅行から芸能ゴシップ、政治まで、山田詠美さんならではの視点で綴ったエッセイ集。例えば、選考委員を務める芥川賞で、ある受賞者に対してこんな本音も〉というナレーションに続いて、一節が引用された。
〈私が一番腹立たしく感じるのは、別に欲しくもないのに賞の方からやって来た、みたいなことを言う人。だったら辞退して賞金を返せば良いのに、と思います〉(「芥川賞内緒ばなし」より)
番組では、際どい本音に驚くオリエンタルラジオの藤森慎吾の顔が映し出されたが、実際、こうした直言には、逆恨みも数知れずあったと詠美さんは後段で明かしている。
〈新人賞選考委員の初めの頃なんか、おまえのような小娘ごときに選ばれたくない、と呪いの人形やら脅迫状やらを散々もらいましたから、嫌がらせに関してはパンチドランク状態なんです〉
『吉祥寺デイズ』には、こうした折々の出来事についての鋭い批評のほか、タイトルに冠した詠美さんの住む東京・吉祥寺での“甘露苦露”な日々や、副題に入った「うまうま食べもの」やお酒のことなど、大人だからこそ愉しめるエッセイが95篇収録されている。
※女性セブン2018年4月26日号