大盛況が続く春巡業の最中に巻き起こった、大相撲の“女人禁制”を巡る騒動。この問題を「伝統か、女性差別か」という論点で捉えようとすると、本質を見誤る。浮かび上がってきたのは「伝統を守る」という台詞を都合よく使いながら、数々の既得権を守ってきた日本相撲協会の醜態である。
八角理事長(元横綱・北勝海)は繰り返し「ちょんまげ文化を守りたい」と発言し、伝統を守ることばかり強調しているが、2014年に公益財団法人の認可を受けた以上、税制優遇を受ける組織に相応しい透明性の高い運営が求められるのは当然だ。
『大相撲の経済学』の著書があり、2011年に日本相撲協会の公益財団法人化に向けた改革案を答申した「ガバナンスの整備に関する独立委員会」で副座長を務めた慶応大学の中島隆信教授は「公益法人化にあたって、協会内のどの立場の人間が、どういう責任を負うかを明確にすべきと提案しましたが、結局、曖昧なままで今に至るまでやってきてしまった。今回も、巡業で緊急事態が起きた時に、誰が責任を持つのかが事前に決まっていなかったということでしょう」と指摘するが、「責任の所在」以外の問題も数多く残されたままだ。
たとえば、引退した力士が親方衆として協会に残るために必要な「年寄株」の取得にまつわる問題である。
「年寄株の数は105と決められており、取得すれば協会で終身雇用(65歳定年、70歳まで再雇用あり)ということもあって、もともと億単位の額で取引されてきた。そうした売買は協会が実態を把握できない不透明なものだったので、公益財団法人への移行に伴い、協会が年寄株の名跡証書を一括管理し、売買は禁止された。
ところが、実態としては“伝統”を変えていないのです。過去に高額な金銭で取得した親方への救済策として、年寄株を譲る後継者を指名して、“顧問料”を受け取ることが認められている。結局、年寄株が金銭でやり取りされる実態は同じです」(若手親方)