「ちょんまげ文化を守りたい」──相撲協会の八角理事長は、そう繰り返してきた。京都府舞鶴市で4月4日に行われた大相撲春巡業における、土俵の“女人禁制”を巡って騒動が巻き起こったが、この問題を「伝統か、女性差別か」という論点で捉えようとすると、本質を見誤る。
相撲協会は、「伝統を守る」という台詞を都合よく使いながら、その一方で協会が自分たちに都合よくルールを変えてきた歴史がある。
たとえば「日本国籍がないと親方になれない」というルールは、1972年7月場所でハワイ出身の高見山が外国人として初めて優勝したことをきっかけに検討が始まった。1976年、春日野理事長(元横綱・栃錦)の時代に、理事会で“年寄株の取得は日本国籍を有する者に限る”という内規ができた。
「外国人力士は1部屋に一人という内規も、モンゴル勢が土俵を席巻していくなかで作られた(2002年)。“国技を守るため”という理由付けがされているが、一方で利益のために昔からの伝統も変えてきた歴史もある。
1928年にNHKラジオ中継が始まるのに合わせて、取組前の仕切りの時間制限が導入された。1952年秋場所からは土俵四隅の柱が撤去され、屋根が吊り下げ方式に改められたが、これは翌年から始まるテレビ放送の際に邪魔になるからです。NHKの放映権料は年間30億円ともいわれるが、巨額マネーのために“ちょんまげ文化”は随分と変容しているのです」(ベテランの相撲ジャーナリスト)
「伝統」を理由に変革を拒むこともあれば、既得権を守るためにルールを後付けしたり、伝統そのものを曲げたりもする。しかも、誰が責任を取るべきで、どのようにチェック機能がはたらくのかも不透明だ。