昔の人は年を取ったら隠居して、何もせずに余生を過ごしていた──そんなイメージは大間違いで、年を取ってから「ライフシフト」した人たちもいた。
伊能忠敬(1745~1818)がその代表格である。商家の婿養子として家業に尽くし、50歳で隠居した彼は19歳年下の幕府天文方・高橋至時に弟子入りし、天文学を学び始めた。全国の測量に取り組んだのは55歳になってからで、74歳で亡くなるまで測量を続け、没後に『大日本沿海輿地全図』が完成した。隠居後に始めた習い事が歴史的事業として実を結んだのである。
鎌倉時代の歌人・鴨長明(1155~1216)もセカンドキャリアで才能が開花した。
「鴨長明は下鴨神社の神官という由緒ある家の出身でした。それまでエリートコースを歩んできたのですが、出世競争に敗れて50歳で出家。
彼にとっては不運かもしれませんが、もし出世が叶っていたら、『方丈記』という大ベストセラーは生まれなかったでしょう」(歴史研究家の井手窪剛氏)
※週刊ポスト2018年4月27日号