滋賀県彦根市のJR東海道本線・河瀬駅の駅前交番に勤務する19才の巡査が上司の井本光巡査部長(41才)を交番内で射殺するという殺人事件が発生した。本来、市民を守るためにあるはず拳銃を使って、警察官が警察官を殺したというこの事件に、日本中が大きな衝撃を受けた。
そんな拳銃については、根深い問題も近年は浮上している。社会に流通する“闇の拳銃”である。
警察庁によれば、年間に押収される違法な拳銃はおよそ300丁。しかし、これらは氷山の一角であると指摘するのは、銃問題に詳しいジャーナリストの大谷昭宏さんだ。
「実際には押収量の数百倍にもあたる15万丁の銃が違法に流通しているといわれます。近年は取り締まりが厳しくなり、これでも減ってきている数字です。ひと昔前は20万丁が流通しているといわれていましたから。持ち主のほとんどは暴力団です」
元来、日本で合法的に銃を持てる職業は警察官、自衛官、海上保安官、入国警備官、麻薬取締官など限られた職業の人のみ。合法的な銃をすべて合わせると15万~20万丁になるとされる。それと同じだけの拳銃が闇社会に出回っているのだ。元北海道警銃器対策課勤務で「銃対のエース」と呼ばれた稲葉圭昭さんが打ち明ける。
「私が現役時代に追っていた案件では、南アフリカ経由で1回に800丁の銃が密輸された。ほかにもロシアを中心にさまざまなルートから日本に入ってくるので、潜在的な数を把握することすら難しい。まれにインターネットなどを介して銃を入手しようとするマニアがいるけど、所詮は素人なのですぐ足がつきます。厄介なのは暴力団で、各組の“武器担当”が責任を持って銃を厳重に管理し、絶対に警察に見つからない場所に隠す。警察も『S(内通者)』を使って必死に隠し場所を探しますが、なかなか見つけられないのが現状です」
ちなみに、稲葉さんによれば、全国で押収した拳銃は都内の工場で溶解し、一部はマンションなど建築物の材料としてリサイクルされるという。
今回の事件をきっかけに「警察官の銃所持を規制せよ」という意見が噴出しているが、大谷さんはこの論を一蹴する。
「警官はいつ何時、発砲して被疑者を取り押さえる状況が発生するかわからない。とりわけ交番の警官は、いざという時に拳銃を利用して市民を守る義務がある。現実として、警官が拳銃を持っていることが犯罪抑止につながっており、警官が拳銃を持たないと必ず治安が悪化します」
事実、彦根市の事件を受けて本誌・女性セブンが現役警察官に取材したところ、
「一緒に勤務する警官に発砲するなんてあり得ない。あまりにも特殊な事例で、これを受けて警官全体の話にされるのは非常に困る」
「拳銃を持たないと、いざというときに凶悪犯から市民を守れない」
といった声が寄せられた。
※女性セブン2018年5月3日号