女優生活60周年を迎えた岩下志麻が出演作品と女優人生を語り尽くしたインタビュー本『美しく、狂おしく』(春日太一著・文藝春秋刊)が、いま話題を呼んでいる。発売から1週間で重版となり、3月にトークイベントを催した八重洲ブックセンター本店(東京)では、60歳前後の男性客を中心に好調な売れ行きが続いているという。
「イベントの告知を弊社のホームページに朝10時にアップしたのですが、電話が殺到し、30分後には募集定員が埋まってしまいました。こんなことはめったになく、まるでアイドルイベントのような現象です。岩下さんの人気の根強さを実感しました」(八重洲ブックセンター広報担当者)
『美しく、狂おしく』は、「週刊ポスト」連載でもおなじみの春日太一氏による丹念なインタビューが46作品ごとにまとめられている。女優になる気はなかったという17歳のデビューから、清純な娘、情念の女、狂女、鬼女、極道へと役の幅を広げて成長する女優の軌跡を、読者も一歩一歩たどることができる。
そして何よりも惹きつけられるのは、夫・篠田正浩氏をはじめ多くの名匠と取り組んだ撮影の鮮明な記憶と、その時々の自分を伝える明晰で率直な言葉の数々だ。「『何をやっても岩下志麻』では私は嫌です」と言い切る言葉には、役を欲してやまない新人女優のような若々しい熱情が宿っている。
※週刊ポスト2018年4月27日号