『伴奏者』を執筆した浅生鴨さん(撮影/横田紋子)
【著者に訊け】浅生鴨さん/『伴走者』/講談社/1512円
【本の内容】
元世界的なサッカー選手だったが交通事故で視力を失った内田は、マラソンで金メダルを獲るため伴走者として指名した淡島に言う。「お前が俺を世界に連れて行くんだ。俺のパイロットとして」(「夏・マラソン編」)。全盲の天才スキーヤー晴の伴走者を務めることになった立川が「怖くないのか」「この先に何があるのかわからずに、滑っているんだろ」と訊くと、晴は答える。「だって立川さんが教えてくれるじゃん」(「冬・スキー編」)。晴眼者には想像がつかない「目が見えない世界」を生きる彼らとの出会いと交流、そして熱い戦いをスピード感溢れる文章で描き出す。
視覚障害者のスポーツを観戦するとき、伴走者に注目して観る人は少ないだろう。影のように選手を支える存在の目を通して、2つの小説を書いた。「夏・マラソン編」と「冬・スキー編」、2組の挑戦を、疾走感のある文章で描く。
浅生さんは元NHK職員。宣伝広報を担当、広報局ツイッターの「中の人」として知られた人だ。
「NHKにいたとき、ソチオリンピックのCMを作る機会があって、伴走者の存在を知ったんです。自分の競技じゃないのにがんばらなければいけないところが面白い、カッコイイなあ、と思って」
当初の目論見を大きく超えて、マラソン編の取材に約2年、スキー編にも2年かかった。
「取材やってる間は小説を書かなくてもすむっていうのがいちばん大きくて(笑い)。編集者にせかされると、『あともう1件取材が』って、ずっと言ってました」
冗談めかすが、伝手をたどって話を聞ける人を探し、会って話を聞いたり試合を見たりするのに時間がかかったという。スキー編の選手は女子高校生にしたので、各地の盲学校を訪ね、スポーツを離れた日常生活についてもあれこれ取材した。どちらの主人公も、それまでまったく知らなかった視覚障害者の世界を少しずつ学んでいく。丁寧な取材に裏打ちされたその過程はリアルだ。
「でも、事実に引きずられすぎないよう、メモを見返したりはしないで、自分の中に残った記憶だけで書いていったんです。結末も決めず、登場人物たちの苦闘を、ドキュメンタリーのカメラで記録するような感覚です。だから勝敗の結果も、最後の最後までどうなるか自分でもわからず、書いてから『ああ、そうなったんだ!』と驚きました」
マラソン編も、スキー編も、主人公は巻き込まれる形で伴走者を引き受ける。他人の勝利をめざす伴走者は、けれども一方的に献身するだけの存在でもない。
「人が人と一緒に生きるってどういうことか、ってスポーツを離れて読んでくださる人もいました。やりたくてやってることばかりじゃないけど、それでも結構ちゃんとやれるよね、って共感してくれた人もいるみたいです」
■取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2018年5月3日号