ライフ

認知症の母が冷蔵庫の中にバスタオル収納、その言い分

冷蔵庫にタオル収納を収納した認知症母

 認知症の母(83才)の介護を引き受けることになったN記者(54才・女性)。片付け上手だった母がどう変わり、そして、今どんなふうに落ち着いたのか。“おかしな場所”に収納していても、本人には本人なりの理屈があるようだ。

 * * *
 母がひとり暮らしをするサ高住の部屋を訪ねるとホッとする。父と暮らしていた3LDKのマンションの荷物を整理し、必要最低限の物だけを持って越してきたワンルーム。部屋では洗濯してお風呂に入って寝るだけの生活だが、いつも整然と片づいている。母が自分で片づけるのだ。

 週1回、掃除援助に来てくれるヘルパーさんに「Mさん(母)に、私の家を掃除してもらいたいくらいだわ」と、ほめてもらえるほどだ。

 父の急死後、ひとりには広すぎる部屋で独居になったときは認知症の症状がひどく、家中荒れ放題。母の人格が変わってしまったようで怖かった。当時のケアマネジャーのかたによると、どう片づけたらよいかがわからなくなるのだという。

 環境の変化で悪化しやすい認知症だが、ゴミ屋敷寸前の生活をリセットし、最小限の物で再スタートしたことが、症状を落ち着かせたようだ。私が適当に配置した物を、母が少しずつ置き換え、だんだん母らしい部屋になってきた。最近は花も飾っている。

 認知症でもこんなに穏やかに戻ることもあるのだなと思っていた矢先に、久々にギョッとする事件が起きた。母の部屋の冷蔵庫の中に、バスタオルと浴用タオルが“収納”されていたのだ。

 冷蔵庫は単身者用の小さいもので、調理はしないので、入っているものといえば父に供える日本酒と、コンビニで無意識に買ってきてしまう菓子くらい。

 小さな庫内が無駄に空いているのは確かだが、そこにきれいに畳たまれたタオルが詰め込まれている違和感…。ゴミ屋敷時代の恐怖が一瞬、よみがえった。

 入浴後に使うタオルは、いわゆる脱衣所がないため、実は置き場所に困っていた。そこで私は、浴室の扉を開けてすぐの位置にある冷蔵庫の上に、プラスチックの棚を置いて、タオルの収納場所としたのだった。インテリアとしては少々おかしいが、必要なときに手が届いて合理的だ。それなのに、棚はいつの間にかベッドの影に撤去され、タオルはなんと冷蔵庫へ。

「どうして棚をはずしたの? 冷蔵庫は食べ物を入れるところでしょ! タオルが冷たくなっちゃうじゃない!!」と、つい意地悪な正論を吐いた。

 すると、ちょうど掃除援助に来てくれていたヘルパーさんが軽く目配せをして言った。

「あら、お母様の工夫じゃない? すごいアイディアねぇ」

 工夫? ヘルパーさんは介護職のプロ的配慮で言ってくれたのだろうが、あながち間違いではないかもしれない。

 母は昔から、そんな工夫を楽しむ人だった。読書好きの自分がくつろげるようトイレに本棚を設えたり、散らかりものを箱に集めてソファの下に押し込み、居間を瞬時に片づけたり。そんな母なら、タオルを不格好な棚に収めるより、冷蔵庫にスマートに収納してしまうのも納得だ。

「お風呂上がりはひんやりタオルが気持ちいいのよ」と、おもしろそうに笑う母。私の意地悪への返球か、自分のおかしな工夫へのフォローか。とにかく今は、自由な独居を存分に堪能しているようだ。

※女性セブン2018年5月3日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

憔悴した様子の永野芽郁
《憔悴の近影》永野芽郁、頬がこけ、目元を腫らして…移動時には“厳戒態勢”「事務所車までダッシュ」【田中圭との不倫報道】
NEWSポストセブン
現行犯逮捕された戸田容疑者と、血痕が残っていた犯行直後の現場(左・時事通信社)
【東大前駅・無差別殺人未遂】「この辺りはみんなエリート。ご近所の親は大学教授、子供は旧帝大…」“教育虐待”訴える戸田佳孝容疑者(43)が育った“インテリ住宅街”
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
【エッセイ連載再開】元フジテレビアナ・渡邊渚さんが綴る近況「目に見えない恐怖と戦う日々」「夢と現実の区別がつかなくなる」
NEWSポストセブン
大阪・関西万博を訪問された愛子さま(2025年5月8日、撮影/JMPA)
《初の万博ご視察》愛子さま、親しみやすさとフォーマルをミックスしたホワイトコーデ
NEWSポストセブン
『続・続・最後から二番目の恋』が放送中
ドラマ『続・続・最後から二番目の恋』も大好評 いつまでのその言動に注目が集まる小泉今日子のカッコよさ
女性セブン
事務所独立と妊娠を発表した中川翔子。
【独占・中川翔子】妊娠・独立発表後初インタビュー 今の本音を直撃! そして“整形疑惑”も出た「最近やめた2つのこと」
NEWSポストセブン
名物企画ENT座談会を開催(左から中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏/撮影=山崎力夫)
【江本孟紀氏×中畑清氏×達川光男氏】解説者3人が阿部巨人の課題を指摘「マー君は二軍で当然」「二軍の年俸が10億円」「マルティネスは明らかに練習不足」
週刊ポスト
田中圭
《田中圭が永野芽郁を招き入れた“別宅”》奥さんや子どもに迷惑かけられない…深酒後は元タレント妻に配慮して自宅回避の“家庭事情”
NEWSポストセブン
ニセコアンヌプリは世界的なスキー場のある山としても知られている(時事通信フォト)
《じわじわ広がる中国バブル崩壊》建設費用踏み倒し、訪日観光客大量キャンセルに「泣くしかない」人たち「日本の話なんかどうでもいいと言われて唖然とした」
NEWSポストセブン
ラッパーとして活動する時期も(YouTubeより。現在は削除済み)
《川崎ストーカー死体遺棄事件》警察の対応に高まる批判 Googleマップに「臨港クズ警察署」、署の前で抗議の声があがり、機動隊が待機する事態に
NEWSポストセブン
北海道札幌市にある建設会社「花井組」SNSでは社長が従業員に暴力を振るう動画が拡散されている(HPより、現在は削除済み)
《暴力動画拡散の花井組》 上半身裸で入れ墨を見せつけ、アウトロー漫画のLINEスタンプ…元従業員が明かした「ヤクザに強烈な憧れがある」 加害社長の素顔
NEWSポストセブン
趣里と父親である水谷豊
《趣里が結婚発表へ》父の水谷豊は“一切干渉しない”スタンス、愛情溢れる娘と設立した「新会社」の存在
NEWSポストセブン