食を楽しみ、発想豊かな料理で「味覚」を発展させた江戸時代。そのグルメぶりを裏付けるのが、当時出版された500冊にも及ぶ料理本だ。
その内容は調理法、献立、食材、食事作法など多岐にわたる。『豆腐百珍』、『大根一式料理秘密箱』など1つの食材に特化した専門書も続々登場。読み解くと江戸の人々がいかに料理の味にこだわり、食材を無駄にせず、要領よく調理をしていたかがうかがえる。
「料理は第一加減、第一包丁、第一盛形いづれか劣りて是なるべき様なし(料理は火や塩などの加減と、包丁の使い方、盛り方3つが揃わなければならない)」(『献立筌』)
「塩梅は五味をふまへ 盛方は縦ば鱠(「鱠(なます)」は魚介類を細かく刻んで、生のまま酢を加えた料理。室町時代より食べられ、「刺身」の原型といわれている)は、山水をかたどりたる心なれば余は是に順して工夫有べし(味は甘酸辛苦鹹(がん)の5味を組み合わせ、盛り方は山水画を描くように工夫を凝らさなければならない)」(『歌仙の組糸』)
冷蔵庫がなかった時代、人々は新鮮な旬の食材を大いに活用した。さらに燃料薪や炭が貴重だったため、時間をかけずに簡単に作れるレシピを考案。
高価な砂糖や油はなるべく使わず、材料は野菜と魚介類が中心のヘルシーなメニューだった。
そんな江戸料理の“味”を支えていたのが、だしやみそ、しょうゆなどの調味料だ。特にだしの「旨味」は和食文化の神髄ともいえる。
「和食における“だし”は地域性や社会、文化などの影響を受けて、独自の発達を遂げました。材料には主にかつおぶし、昆布、煮干し、しいたけなどが使用され、西洋料理や中華などとは違い、油脂成分をほとんど含まないという特徴を持っています。また、かつおやかつおぶしについては体によい効果をもたらすといった記述も見られます」(国立国会図書館)
まさにスローフードの原点ともいえる江戸料理。ヘルシーで健康によく調理が簡単で旨い。となれば、さっそく台所に応用してみたい。
◆江戸料理の材料
冷蔵庫のない江戸時代は、旬の食材を短期間で調理する必要があった。そのため、野菜類では主にふき、わらび、タンポポ、せりなどの旬の野草が中心。
栽培しやすいさや豆、はじき豆、えんどう豆、いんげん豆などの豆類や、大根などの根菜類、保存がきくさつまいも、里いもなどのいも類がよく使われていた。
総菜料理を扱った『年中番菜録』(1849年)には、当時の主な食材が記されている。
それによると、通年食べられ人気だったのが干し大根などの乾物や、豆腐、こんにゃく、油揚げなどの加工食品。魚介類でよく食べられていたのが、はまぐり、しじみ、あさり、タニシなどの貝類だ。
魚は、鯛など鮮度が比較的保てる白身魚が中心で、クジラやさば、あじ、たらなど多くの魚は「塩物」や「干し物」として食べられていた。
現在高級魚のまぐろは、当時は人気がなく、下の下の格付け。さんまは鮮度を維持するのが難しく、主に灯油用の油をとるために利用。一般的に食用されるようになったのは、江戸時代後期のことだ。
一方で人気を博した魚が「かつお」である。「食べると寿命が延びる」といわれ、縁起物としての地位も確立。その年の「初がつお」にありつくことが、江戸の人々の贅沢な流行となった。
※女性セブン2018年5月3日号