「冗談でなく、角打ちでスタンプラリーや御朱印巡りみたいなことをやったら面白いと思わんですか」と、ほろ酔いサラリーマンが同意を求めてきた。
ここ北九州市は、昭和38年に小倉、門司、戸畑、八幡、若松の5つの旧市が一緒になって発足した政令指定都市。だが、その歴史が始まるはるか以前から現在に至るまで、旧5市それぞれの町には、角打ちで憩える味のある顔を持った酒屋が数多く息づいてきた。
「そういう遊びをからめれば、角打ちの世界が広がり、ファンも増えるでしょ。飲んべえならではのまじめな意見です」(50代、製造業)
こんな楽しげなアイデアを提供してくれた主と出会ったのは、小倉城がどっしりと腰をおろす一方で、市役所があり、繁華街・歓楽街が広がる市の中心地区・小倉北区にある『平尾酒店』だった。
別の常連客が、同感とばかりにその意見を柔らかく包み込んだうえで、この店で過ごす時間の幸せを語ってくれる。
「通ってまだ1年というか、もう1年経つんですけどね。初めて来たときと同じ温かさのまま、今もつきあってくれる常連さんが大勢いる。そんな彼らが“女神”として崇拝してやまない、気品のある笑顔の女将(平尾ユカリさん・78歳)がいる。そういう中で、安くてうまい酒が飲めるんですよ」(40代、運輸業)
小さな旅気分であちこちの店に立ち寄るのも魅力。でも、女神のいるこの店を知ったとしたら、自然にここが角打ち巡りの母港となるはずだというのだ。