高齢になり体のあちこちが衰えてくると、生活に不自由が生じ、長年親しんだモノも使いこなせなくなったりする。でもがっかりしてはいけない。長年慣れ親しんだモノや環境を、衰えに合わせ工夫して選び直せば、今度は強い味方になってくれるのだ。
要介護者の機能訓練や自立を助けるために工夫された福祉用具の専門相談員、山上智史さんに、高齢家族を支えるためのモノや福祉用具とのつきあい方を聞いた。
「老いは止められませんが、モノや環境は変えることができるのです」とは、山上さん。高齢者にとっては長いつきあいの生活用品や住まいの環境。慣れ親しんだ状態がベスト、使えなくなったら仕方がないとあきらめがちだが、新たな見方を提案する。
「介護する立場からは気づきにくいかもしれませんが、意外に小さな発想の転換です。たとえば認知症で時間の感覚が鈍くなり、昼夜逆転になりそうになっていた人に、正時に音が鳴る掛け時計に変える提案をしました。すると音が鳴るたびに時計を見て時刻を意識するようになり、生活リズムが戻ったのです。
また、手の力が入らなくなり、ペットボトルのふたが開けられなくなったと嘆いた人に、『ボトルをテーブルに置いてふたを持つ手を固定して、ボトルの方を回してみて』と伝えると、軽い力で難なく開けられ、非常に喜ばれました。ささいなことですが、できないと思ったことができることは、自立生活する上ではとても大きなことなのです」
ほかにも、認知症が進行すると慣れた家でもトイレの場所がわからなくなることがあるが、扉にひと目でトイレとわかる絵を貼ると、迷いなく行きやすくなる。また、認知機能が衰えると、食器の模様と食べ物の区別がつかずに食が進まなくなるため、白無地の器を使うとよいなど、ちょっとしたモノの工夫で解決する場面はたくさんある。
「介護者はつい、介助方法ばかりに目が行きがちですが、“モノを変える”と視野を広げてみてください。不安や不便が減るだけでなく、もっとできることが増えるのです」
※女性セブン2018年5月3日号