カナダの中心部・オンタリオ州で、にわかに「反日」の動きが活発化している。昨年10月には州議会で、12月13日を「南京大虐殺記念日」とすることが定められた。そうした動きの背景にいるのが、香港出身の医師で慈善家のジョセフ・ウォン氏(69)である。その「反日グランドマスター」とも言える男性の正体を、ノンフィクションライターの安田峰俊氏がリポートする。
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ジョセフは過去に数多くの表彰を受けてきた街の名士で、知的な丁寧な話し方ではあるが、米国の華人系女性作家アイリス・チャンが1997年に出版した『ザ・レイプ・オブ・南京』を世界的ベストセラーに押し上げた事実上の仕掛け人として知られ、対日歴史問題を追及する北米有数の華人系ロビイスト組織「アルファ・エデュケーション」(AE)の設立者でもある。
現在は、カナダ・オンタリオ州トロント市郊外にある、入居者4000人以上を擁する華僑系の老人ホーム、頤康中心(イーホンセンター)の所長も務めている。その老人ホームの一部は日系人の専用エリアで、老人たちの塗り絵や日本語の掲示物が溢れる。
「日本人への憎悪は一切ない」と述べるジョセフは、単純な「反日」活動家とは断じづらい部分もある。
「私は人道主義(ヒューマニズム)が信条です。かつて私の老人ホームに日系人エリアを作った際も、華人系の民族主義者からは『なぜ日本人を入れるのか』と批判されましたが、人道の前には中国も日本も関係ないと考えています。