発売から1年9か月、佐藤愛子さんの『九十歳。何がめでたい』の快進撃が続いている。このたびめでたく30刷の重版が決まり、128万部を突破した。
驚異のロングセラーとなっているのはなぜか。共同通信は4月、「元気な老境文学、快進撃」と題し、芥川賞を受賞した若竹千佐子さん(64才)の『おらおらでひとりいぐも』などと重ね合わせて、大ヒットの理由をこう分析した。
〈共通点は「ひとり」を前向きに受け入れ、若々しく、ユーモアがあること。突き抜けた解放感で読者を鼓舞する〉
若竹さんの小説は、夫に先立たれて悲しみに暮れる74才の桃子さんが、「私はひとりで生きていく」と、新たな老いの境地を受け入れていくものだ。一方の佐藤愛子さんは、桃子さんよりも年齢が20才上。『九十歳。何がめでたい』は、90才を過ぎ、小説『晩鐘』を書き終えて一度は断筆した佐藤さんが<老人性ウツ病>になったことから再び筆を執り、〈なくなった力をふるい起すために、しばしばヤケクソに〉なって綴ったエッセイ集だ。いわば『おらおらでひとりいぐも』の実践編が『九十歳。何がめでたい』ということになるだろうか。執筆によって再び元気を取り戻した佐藤さんの筆は冴え渡っている。
例えばインターネット上で誹謗中傷が殺到し、謝罪に追い込まれる炎上事件は枚挙にいとまがないが、佐藤さんは本書で一刀両断する。
〈いちいちうるさい世の中である〉──
先日『かがみの孤城』で本屋大賞を受賞した辻村深月さんが本書について「読み終えて本を閉じ、思わずにはいられなかった。九十歳。それでもやっぱりおめでたい、と」と評したように、タイトルとは裏腹の力強い筆致に「生きる勇気をもらった」と喝采を送る声が多い。
社会現象となっている漫画『君たちはどう生きるか』は1937年に吉野源三郎が著した本を漫画化したもの。おじさんとのやり取りを通して、少年コペル君が「生きる意味」を探り、成長していく物語だ。『九十歳。何がめでたい』にこんな一節がある。
〈人生いかに生きるか、なんて考えたこともない。その場その場でただ突進するのみだった〉
生きる意味を考えることは決して無駄なことではない。しかし、いくら考えても予想もしないことが起きるのが人生でもある。それは多くの人の実感だろう。では、その時に必要なことは何か。佐藤さんは別項でも「生きる」とはどういうことか、綴っている。
年上の彼との結婚を家族に反対されているという悩みを新聞の人生相談欄に投稿した女性と、それに対する〈覚悟と勇気がなければ結婚するものではないのです。それでも彼と添い遂げたいというなら、一生、その意志を曲げないと誓ってください〉などの回答に対して、佐藤さんは反論する。