漫画家・福本伸行氏による『カイジ』シリーズといえば、主人公の伊藤開司が友人の保証人となり多額の負債を抱えたことをきっかけに、借金返済のため文字通り命を賭けた極限の勝負を繰り返す人気漫画だ。今では「カイジ」という単語が、命がけで一攫千金で人生をバラ色に好転させる、といった意味を連想させるほどだ。イラストレーターでコラムニストのヨシムラヒロム氏が、AbemaTVで4月に始まった賞金1億円『リアルカイジGP』のスケールの大きさについて考えた。
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昨年末、TBSで人気漫画『カイジ』を原作とした異色のバラエティ特別番組『人生逆転バトル カイジ』が放送された。出場者が原作漫画を再現したギャンブルに挑戦し、話題を集めた。
番組演出は『水曜日のダウンタウン』で著名な藤井健太郎。原作と藤井の底意地が悪い演出方法の相性は抜群。『カイジ』独特の効果音「ざわ……」や独特の台詞回しも完璧に再現されていた。原作ファンも楽しめる番組に仕上がっていた。
今年1月、ネットニュースを見ていると驚くべきニュースが飛び込んできた。なんと! AbemaTVでも『カイジ』を原作とした番組を制作するとのこと。その名も『リアルカイジGP』。
TBS版『人生逆転バトル カイジ』の熱が冷めないなか、随分と強気な試みである。読み進めると更なる驚きが。賞金は業界過去最高金額の1億円。TBS版は200万円である、それに比べて50倍。強気な心持ちも理解できる賞金設定だ。この過剰さがTV新興勢力のAbemaTVらしくて良い。
4月の配信を指折り待つなか、事前番組もチェック。そのなかで、『リアルカイジGP』の司会者が極楽とんぼの加藤浩次だと知る。個人的には、これ以上はないナイスな人選だと思った。
番組のコンセプトは「1億円を手に入れて人生を大逆転」。
小樽出身の加藤、東京での1人暮らしは風呂なしアパートから始まった。それが今となっては高級住宅街の豪邸暮らし。策略とパワーゲームで支配される芸能界を勝ち抜き、全てを手に入れた勝者の生活を営む(実際に加藤は、芸能界自体がギャンブルみたいなものと考え、そこで運を使うのはもったいないからとパチンコをやめている)。大金を掴んだ方法はギャンブルとは異なるが、大金を手に入れて人生を大逆転したことには変わりはない。
ここで簡単な『リアルカイジGP』の説明をしたい。応募総数約3万5000人のなかから、勝ち残った1人が1億円を手に入れる。競技はROUND1からROUND3、そして決勝の4回戦で争われる。
4月15日に放送された初回では、台場で行われたROUND1の東京予選の模様が配信された。書類選考を勝ち上がった2000人が参加し、そのうち250人が勝ち抜けるシビアなシステム。絶対に負けられない戦いがそこにはあった。
番組冒頭、加藤が壇上に現れる。「お前達、1億円が欲しいか!?」と眼下に見る挑戦者に問う。
今となっては『SASUKE』でしか、目にすることない巨大なセットに囲われる2000人の挑戦者は一斉に「オー!」と叫ぶ。続けて、加藤は「人生逆転したいか!?」と煽る。挑戦は再び「オー!」と叫ぶ。しかし、コール&レスポンスなんか違う。この違和感なんだろう……、そして気づく「これはカイジのノリじゃないな」と。
原作『カイジ』は、主人公カイジが戦うギャンブルの元締めグループの人外的なエグさがベース。冷酷無慈悲で阿鼻叫喚の勝負が行われる。そんな殺伐すぎる世界観に映えるのが作者・福本伸行のユーモラスな台詞回し。殺伐とギャグが同居する、そのギャップが『カイジ』の魅力だ。TBS版はそれを完璧に再現していた。
しかし、Abema版はこの様相。まるで往年の『アメリカ横断ウルトラクイズ』。福留功男が叫ぶ「ニューヨークへ行きたいか~!!」を見ているような気分になった。見ているこっちがこはずかしくなる。1億円争奪バトルだけで十分番組が成立するのに、なぜ『カイジ』要素を加えたのか。そんなことを考えてしまう展開はまだ続く。