中国は監視社会といわれるが、その“精度”のほどはこんな些末な事件からも伺い知ることができる。現地の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
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いったい何を焦点に記事を書くべきか、迷ってしまう事件である。武漢市青山区で起きたスマートフォンの窃盗事件の顛末である。まずは、事件を報じた地元紙、『楚天都市報』(4月11日付)のタイトルからみてほしいのだが、それは、
〈携帯電話を盗んだ男が、盗まれた男の妻とデートの約束 現場に現れてところで逮捕〉
というものだった。
簡単にはシチュエーションが浮かんでこないのだが、要するに携帯を盗んでおいて、その被害者の妻とのデートの約束を取り付け、待ち合わせにのこのこ現れたところで御用となったという話だ。
この泥棒がナンパの達人なのか、それとも被害者の妻というのが背徳夫人なのか、と思って記事に読み進めると、さにあらず。要するに、夫に何度電話してもつながらない妻が心配して連絡を取り続け、まんまと犯人を誘い出したという捕り物劇であった。
当初、妻は夫に20数回も電話をかけたがずっとつながらない。うち、2回ほど誰かが応答したのだが、返事をしないまま通話は途切れたという。
何か深刻な事件の巻き込まれたのでは。それを心配した妻が、夫の入り浸っているネットカフェに向かうと、夫は自分の携帯が盗まれたことも知らずに遊んでいたという。携帯電話は新しいものを買ったばかりで、暗証番号の設定をする前だった。
ほどなくして犯人がウィチャットの設定をしたらしく妻が「友達」に入れられ、そこから巧妙に犯人を誘い出したというストーリーである。いわゆる「妻のお手柄」というやつだが、驚いたのは、警察の捜査能力である。
通報を受けて間もなく、ネットカフェに残った映像を確認。顔認証システムに照合したらすぐに男の身元(張と名乗る40歳の洪湖人)が特定されたと記事にはある。要するに妻が呼び出さなくても犯人は間もなく捕まっていたことは間違いない。恐るべき監視社会の一端が垣間見えた事件である。