「最後のお別れ」となる弔辞を読み上げるのは、自分のことを本当によくわかってくれている人であってほしい──歳を重ねると、ふとそんな思いに駆られることがある。そこで各界著名人に「自分の葬式で弔辞を読んでほしいのは誰か」と聞いてみた。芥川賞作家の高橋三千綱氏(70)は、自身が原作・脚本・監督を務めた映画で主演を張った俳優の名を挙げた。
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映画『真夜中のボクサー』(1983年・東宝)では、世界王座に就いたボクサーが、仕組まれた八百長試合に挫折し、放浪の旅に出ながら孤独なトレーニングに励むシーンが続きます。その役を演じてくれたのが田中健君(67)でした。
彼はこの作品のために、1年かけてジムに通い、元WBA・WBC世界ジュニアライト級王者の沼田義明氏に個人指導を受けながら、見事、ボクサーの身体に仕上げてくれた。もともと交遊があった俳優の三浦友和君とトレーニングの様子を見る機会があったんですが、三浦君が「僕にはできない」と言ったほど過酷な役づくりでした。
といっても、劇中でボクシングシーンはまったくなく、1回パンチを出すだけ。脚本を読んでいたから、田中君もそれは分かっていたはず。でも彼は妥協を許さず1日6時間以上もトレーニングに励み、一言も文句を言わなかった。ギャラも含めてね(笑い)。
この映画に私財も含めて私のすべてをつぎ込みました。田中君は撮影を通じて、私のいろんな面を見ていたと思う。私を最も理解してくれた田中君の目にどう映っていたか。多くを語らない人だからこそ、あの時の本心を私の亡骸に向けて伝えてほしい。