新緑の風が心地よいゴールデンウイーク目前、東京・羽田空港国際線ターミナルは海外に旅立つ人たちの熱気と笑顔であふれていた。ひときわはしゃぐ高齢女性の後ろを、スーツケースを手にとぼとぼついて歩く齋藤由美さん(仮名・52才)の顔はなぜか浮かない。
「これから母とグアム旅行なのですが、憂鬱で憂鬱で…。実は去年も連休中にハワイに行ったのですが、80才の母が二言目には“もう年だし、二度と海外なんて来られないだろうから”と言ってワガママ放題。そう言われるとこっちも何も言えず、ご飯を食べる場所も、ホテルも観光地も全部いいなり。その結果、帰りの飛行機ではグッタリする私をよそに元気が有り余っている母は、“来年はどこに行こう?”って目を輝かせていて、あの“二度と来られない”発言は一体何だったのか…。
結局、今年も元気いっぱいでグアムに旅立ちます。しかもまた、“さすがに来年は無理だと思うから”なんて言うんです。これから3泊4日、先が思いやられます」
齋藤さんのように、「命」を天秤にかけて自分の要求を通そうとする「冥土の土産ハラスメント」に苦しむ人々が急増している。実際、本誌・女性セブンが読者を対象に実施したアンケートでも、多くの人から怒りと困惑の声が聞こえてきた。
「内臓の大手術を乗り越えた姑は、“人間、いつ死ぬかわからないんだから”が口癖に。結果、お小言も食欲も手術前の2倍にパワーアップ。大病をしたあとに回復したのは嬉しいことですが、正直しんどいです」(40代主婦)
冥土の土産を盾に“おねだり”された人もいる。
「祖父から唐突に“新車を買ってほしい”と言われました。何でも、死ぬ前に一度でいいから新車に乗りたいんだそう。運転するのは危ないしそんな高い買い物、できるわけがないからすぐに断りましたが、まさかまだ物欲が残っていたなんて…」(30代会社員)
被害に遭うのは、家庭内だけではない。街中や介護施設でも横行している。
4月上旬、宮城県内を走行中のJR東北線電車内で仰天の出来事があった。仙台市の老人クラブのメンバーが車内の座席の至るところに「席をお譲り下さい」「敬老者が16名乗車します」などと書いたA4判の紙を置き、席を確保したのだ。
当然、他の乗客は座ることができず、立ったまま彼らの動向を見守るよりほかなかった。この件は、のちにインターネットで大炎上した。
新幹線の自由席でも、座っている若者に対して高齢者が「老い先短い老人に席を譲れないの!」と怒鳴って無理矢理譲らせるケースが増えているという。
※女性セブン2018年5月10・17日号