日本のレストランの厨房にカメラがついているところは極めて少ないと思われるが、中国ではいまや珍しくもないらしい。現地の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
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食品の安全という問題では、ずいぶん長いこと苦しんだ中国だが、スマートフォンの普及とIT技術の進化により、いまでは状況は大きく改善された。というよりも、もはや上海や深圳、北京といった大都会の一部ではもはや日本以上に食の安全は確保されているといっても間違いない。
たとえば、ランチで普及しているケータリングシステムでは、多くの店が厨房での調理の様子を動画でライブ配信をしていて、消費者は厨房の清潔さなどを自分の目で確かめてから注文ができる。大手スーパーでは、野菜に取り付けられたタグにスマホをかざすだけで、どこでどのような検査を受けたのかが確認でき、データも取得できる。
そんなことが当たり前になりつつある中国だからこそ、というべきか、あるニュースが大きな話題となった。
伝えたのは『澎湃新聞』(4月4日付)。記事のタイトルは、〈同郷のレストランが絶好調なのをうらやみ、男が店に忍び込んで鍋に糞尿をぶちまける〉である。
考えただけで吐き気がこみあげてくる話だが、こればっかりは防ごうにも防ぐ手立てはない。で、気になるのはどれほどの客がそれを食べたのか、という疑問だ。
幸いなことに、食べたのはそのレストランのオーナーだけだったようだ。というのも客に供する前に味見をしたところ、「いつもの味ではない」と疑問に思い、レストラン内を映した防犯カメラを確認したところ、同郷の男が異物を入れるところを見つけたという。
後味の良い話じゃないが、厨房を映すカメラを備えている中国だからこそ真相が明らかになったといえるのかもしれない。このニュースは動画と共に全国のテレビニュースにもなったから、今後の犯罪防止にもつながるのだろう。