子供が犯罪に巻き込まれることは、親にとって何よりも避けたい。そんな心情が逆に騒ぎを大きくさせるケースもある。中国の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
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かつて中国で横行し、社会に深刻な影を落としていた子供の誘拐事件。不完全な統計ではあるが、年間20万人が被害に遭っていたとされる。その被害者のほとんどは販売目的であるため殺害されるという話ではないが、子供を失った親たちの悲しみは深く、多くの悲劇を生んできた。
問題はいま、やや落ち着いているとはいえ、社会の中に根付いた警戒感はいまだ払拭されていない。そんななかで起きた広東省の騒ぎが全国の人々を慌てさせた。
2018年3月28日の『澎湃新聞』が伝えたタイトルは、〈広東省の小学生が誘拐に遭ったと告げるも本人にはケガはなく宿題のノートだけがなくなっていた〉である。
タイトルを一見しただけで騒ぎの中身はおおよそ見当がつくのだろうが、そこは誘拐に敏感な中国社会のことである、ちょっとした騒ぎでは済まなかった。
なかでも子供が「眼鏡をかけた男に無理やりワンボックスカーに乗せられそうになった」という証言をしたから大変なことになった。
周辺に対して怪しいワンボックスカーの手配が行われると同時に、いまや刑事事件では大活躍の監視カメラのチェックまでが行われたが、それらしき対象が浮かんでこない。結局、もう一度きちんと小学生から話を聞き、持ち物でなくなっているのが宿題のノートだけという事実が明らかになり、騒ぎは収束したのである。
なんともありがちな話だが、誘拐問題が社会に深く認知されている中国ならではの騒ぎといえるだろう。