平成の時代を体現した今上天皇のあと、2019年5月1日に即位する皇太子はどのような天皇像を築くのか。『平成史』(小学館)を共著で上梓した元外務省主任分析官の佐藤優氏と、思想史研究者の片山杜秀氏の2人が、世界が民主主義から独裁に傾く傾向にあるなか、日本での可能性と天皇の存在について考える。
佐藤:印象的だったのは昨年11月のトランプの東アジア歴訪です。中国でトランプを迎えた習近平は故宮を案内した。故宮は中国共産党の高官も立ち入れない神聖な場所です。それを我が物顔で、米大統領を案内した。これは習近平が、中国における現人神である皇帝となって、天とつながったと見ることもできる。一方のトランプも宣誓では必ず聖書を前に置く。これも神とつながる行為です。
片山:自信過剰なトランプも、中国を掌握したように見える習近平も不安があるからこそ、神とつながろうとするんでしょうね。そうした不安が世界中を覆っているせいで、全世界的に民主主義の機能不全が起きているように見えます。
佐藤:議論を尽くす民主主義の意思決定には時間がかかる。でも社会が目まぐるしく動く現代では、意思決定に時間をかけない独裁体制を求めてしまう。あるいは神など理性の外側にある英知を求め始めた。
片山:日本でいえば、「日本会議」(保守系の民間自体)がそうです。彼らは戦後民主主義を恨み、超越的な天皇主権への復帰を目指した。復古主義者である彼らや反知性主義の安倍政権は、いまの時代と相性が非常にいい。
佐藤:ただし、今後、日本で独裁が可能になっていくかといえば、疑問です。たとえば戦前の日本は大政翼賛会を結成し、天皇を中心とした独裁体制を目指しました。しかし実現できなかった。私はその原因を天皇がいたから、と考えているんです。