「命」を天秤にかけて自分の要求を通そうとする「冥土の土産ハラスメント」に苦しむ人々が急増している。たとえば入院中の男性患者が看護師の女性に「後生だから裸を最後に拝ませてくれ」と言ったりすることだ。
もしかしたら、「冥土の土産ハラスメント」は老い先短い高齢者たちが、「自分の生きた道を認めてほしい」という気持ちゆえにはき出してしまう切ないワガママなのかもしれない──。
しかし、都内の広告代理店に勤務するOLの山口愛さん(仮名・27才)はそんな意見にはっきりとNOをつきつける。
「この問題は、お年寄りだけじゃないんです。現に私は、会社の花形企画である『東京五輪プロジェクト』への参加を希望していたのに、50代の上司から“愛ちゃんは2度目があるかもしれないけど、私はこれがラストチャンスだから!”ってもぎ取られたんです。私だって明日死ぬかもしれないのに、理不尽じゃないですか!?」
臨床心理士の稲富正治氏が言う。
「高齢者に限らず、親子間や恋人同士でも“言うことを聞いてくれないと死ぬ”と迫るケースがある。人間はこういった言葉に同情したり、不安になって願いを叶えてあげようとして断りきれなくなってしまいがちです。それは、人の要求は代償が大きくなるほど断ることに罪悪感を覚えてしまうから。死はその代償の最たるもので、それをつきつけられると良心の呵責から断りづらい」
だからといって、要求を叶えてばかりもいられない。やっかいな「冥土の土産ハラスメント」をかわすにはどうしたらいいのか。
「前提として、息がぜいぜいして本当に明日死ぬかもしれない人は絶対に無茶な要求をしてこない。深刻に受け止めて負担に思う必要はありません。例えば、海外旅行を要求されたら、“そういうことが冥土の土産なんだ、海外旅行か、素敵ね”と話を聞きながらも、本人の体力が心配だとか金銭的に難しいとかこちらの主張もすること。最終的に“じゃあ日帰りの温泉ならば行けるかもしれない”などと落としどころを見つけることが大事です」(稲富氏)
人生100年時代の思わぬ弊害。閻魔大王も冥土で苦笑いだろう…。
※女性セブン2018年5月10・17日号