多くの人が望む自宅での療養と最期を支える在宅医として、数多くの看取りを行ってきた長尾クリニック院長の長尾和宏さん。家族が悩む“介護の場所”について、力強いアドバイスをくれた。
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在宅か施設か、病院かの択一ととらえない方がいい。今は療養形態も多様化していて、高齢の親の状態や介護する家族の生活や介護力に合わせて、自宅・施設・病院を行ったり来たり、自在にアレンジすることができるのです。
私の在宅医療の患者さんでも、月のうちほとんどを施設のショートステイで過ごし、自宅に帰るのは数日という人、呼吸器が必要で要介護5の親を在宅介護しながらフルタイムで働いている人もいます。
また天涯孤独のおひとり様で認知症や末期がんの人も診ています。つまり家族がいなくても大丈夫。介護の形にこだわって取り越し苦労をしなくてもいいのです。核家族で育った今の40~50代は人が老いて死ぬことを現実に見ていないから、戸惑い、介護のパッケージを求めてしまう。必ずしも在宅が親孝行とは限らないし、施設で気楽にと考える高齢者もいます。
大切なのは“あなたの親”に心を寄せること。たとえ施設や病院に入っても会いに行って話す、聞く。電話やメールでもいい。コミュニケーションこそが何よりの親孝行です。
これからは多死社会。死をタブー視するのではなく、人生の大切な最期の瞬間ととらえましょう。子世代はその時を心穏やかに迎えられるように環境を準備すべく、元気なうちから親子で話し合いを。親の人生の最終段階に、ぜひいい親子関係を築いてください。
※女性セブン2018年5月10・17日号