瀬戸内に面し、全国47都道府県の中でいちばん面積が小さい香川県。四国の東北部に位置する香川県東かがわ市。金毘羅参りの出発点でもある同市は「手袋製造日本一」って、ご存じでした? 雨が少なく、温暖な気候のこの場所で、なぜ、冬のイメージが強い手袋産業が生まれたのか? その歴史は約130年前の、明治時代まで遡ります。
「東かがわ出身の住職・両児舜礼がある時、女性とかけ落ちをして大阪に移り住みます。そして生計を立てるために当時、メリヤス製品の『手靴』といわれた手袋を作り始めたのが最初です。これが船場商人を通じてよく売れて、事業も拡大。そこで従兄弟の棚次辰吉が経営を手伝い始めたのですが、舜礼は死去し、その遺志を継いだ辰吉が、故郷である東かがわに、その技術を持ち帰ったのです。
当時、ここでは砂糖や塩の製造が盛んでしたが、外国からの輸入により衰退していたので、人々の生活を助けられるベストなタイミングでもあったのです」(日本手袋工業組合事務局長 大原正志さん・以下同)
以降、さまざまな手袋を作り続け、全国生産の90%を維持している。最近では、知名度を上げるため、“てぶくろ市”としてPR活動も盛んに行っている。
そんな中、注目を集めているのが競技用手袋だ。平昌五輪では、スキージャンプやノルディック複合などの日本人メダリストも愛用している。
「他にも、メジャーリーガーやプロゴルファーなどの手袋を手掛けています。アスリートは手袋1つで成績が変わるので、素材や製法もかなりこだわって作っています」
トップアスリート用の場合、手形に切った素材をただ縫い合わせるだけでなく、32ものパーツに分け、細かく縫い合わせていくという。
「特に、親指部分は根気のいる作業です。縫い代の幅が広くても狭すぎてもフィット感がなくなり、扱いにくくなるのです」
手袋1つ縫えるようになるまで3年以上はかかるという。熟練の技が必要だ。また、スポーツや防寒だけでなく、ファッションとしての手袋にも力を入れている。
「手袋とバッグをセットにして持つのがおしゃれのポイントです。欧米の高級バッグには、手袋を差し込むリングがついていますが、男性も礼服の時には白の手袋を着用するのがマナー。手袋の着用は、紳士淑女のたしなみなのです」
ファッション手袋なら、少し大きめのものを、スポーツ用はジャストフィットするものを選び、できれば試着してから購入するのがベストだ。
※女性セブン2018年5月10・17日号