4月18日の日米首脳会談後の共同記者会見でも何度もトランプ米大統領を「ドナルド」と呼び、親密さを誇示した安倍晋三首相。かつてのロナルド・レーガン大統領と中曽根康弘首相の“ロン・ヤス”を意識しているように見えるが、ここには“すれ違い”があるという。アメリカ政治に詳しいジャーナリストの中岡望氏が指摘する。
「トランプ氏も安倍首相のことを“シンゾー”と呼んでいる印象があるかもしれませんが、ちょっと違う。ゴルフの合間などの会話では“シンゾー”と呼んでも、公式の席では基本的に“プライム・ミニスター”と敬称で呼んでいます」
共同会見の内容を詳報したウェブ版の産経ニュースの記事(4月19日付)では、ひとつの段落に「シンゾー」が3回も出てくるくだりがあるが、実際の音声を確認すると、トランプ氏は一度しか「シンゾー」と呼んでいない。you(あなた)やwe(私たち)を「シンゾー」と“意訳”しているのだ。記事から受ける印象ほどは、ファーストネームで呼び合っていないのである。
それでも、各国首脳をファーストネームで呼ぶのは安倍首相の流儀のようで、メルケル独首相に「アンゲラ」、メイ英首相にも「テリーザ」と呼びかけてきた。2016年、2017年の日露首脳会談や共同記者会見で、プーチン露大統領が「首相閣下」と呼ぶのに対して「ウラジーミル」と連呼する安倍首相に違和感を抱く人は少なくはなかった。
ロシア政治に詳しい中村逸郎・筑波大学教授はいう。
「一度、安倍首相と親しい大学教授の方にやめるように進言してもらったことがあるのですが、直っていません。メディアも入る公式の席で、相手国首脳をファーストネームで呼ぶことは世界の外交儀礼上、非礼に当たります。この“大物にファーストネームで呼びかけられるのは世界で俺くらい。すごいだろう”というパフォーマンスになると考えているのかもしれませんが、相手に失礼だととらえられては、肝心の国益にはマイナスです。そもそもロシア語の発音は“ヴラジーミル”です」
日朝首脳会談が叶う際には、「ジョンウン」と呼ぶことだけはやめてほしい。
※週刊ポスト2018年5月18日号