作家の佐藤優氏と思想史研究家の片山杜秀氏が「平成史」を語り合うシリーズ。国際情報誌SAPIO誌上で行われた対談は最終回を迎え、単行本『平成史』としてまとめられた。最後のテーマは、「今上天皇の足跡」となった。
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佐藤:興味深かったのはあのしんぶん赤旗が譲位や改元の議論に合わせて、元号を併記しはじめたこと。天皇や元号に対する意識という点では大きな変化です。
片山:私が変化を感じたのは、お言葉を巡る国民の反応です。日本の社会がすっかり変わったと思いました。昭和天皇の崩御を思い出してください。言論界には天皇制の強化を訴える声が上がる半面、天皇制と日本帝国主義の負の結びつきを強調する論調もあった。天皇制を廃止して共和制への移行を主張する人もいた。なかには、中華人民共和国の一人民になった愛新覚羅溥儀(注1)のように、天皇も一市民になればいいという意見さえあった。
【注1/愛新覚羅溥儀、1906~1967。清、満州国の皇帝。1911年に始まった辛亥革命(~1912年)で退位した清朝最後の皇帝。その後、日本軍のバックアップで1934年に満州国皇帝となる。日本の敗戦とともに満州国は崩壊し、旧ソ連軍によって抑留された。1946年には東京裁判に出廷。戦犯として中国の撫順戦犯管理所に収容されたが、のちに特赦で釈放されて北京に住んだ。】
佐藤:天皇に対しての国民の意識が変わってきているのは間違いありません。いま、国民は天皇を強くは意識していないんじゃないかな。しかし、それが天皇観の稀薄化を意味しているとは思えない。