本の相棒ともいえる「しおり」(英語でブックマーク)は、紀元前にさかのぼる書物の発展や時代の移り変わりとともに変貌を遂げてきた。“日本語で書かれた唯一のしおり通史”として話題を集めている『世界のしおり・ブックマーク意外史』(デコ)の著者で、しおり史研究家の猪又義孝氏が、本としおりの深い関係を紐解く。
「フランスの哲学者で作家のモーリス・ブランショが『書物の始めは聖書である』と言ったように、欧州を中心とするキリスト教社会では古くから“ザ・ブック”といえば聖書を指しました。
欧州のブックマークは、聖職者が肩からかける長い帯状の布・ストラを教会の聖書に目印として挟んだことが起源と考えられています。当時、聖書は大きく、聖職者が読み上げて聴衆に聞かせるものでした。日本で今も売られている教会用ブックマークは、ストラを小さく実用的にした幅と長さになっています。もっとも、私が買ったものは長さ74.5センチ。これを必要とする大きな本にはなかなかお目にかかれません」(猪又氏、以下「」内同)
キリスト教が書物に与えた影響は大きかった。ページに順番をつけることは神の秩序を乱すものとして、現在の本では当たり前の「ノンブル」(ページ番号)は16世紀まで存在しなかったという。それだけにしおりの役割は大きく、便利な存在だったと思われる。
印刷本が普及したのは、グーテンベルクによって活版印刷技術が発明された15世紀になってから。国際的なベストセラーも生まれるようになり、大衆も読書を楽しむ時代が到来した。しおりも革製を中心に様々な趣向を凝らしたものが普及していく。産業革命以降は金属や貝殻、絹製も多くなるが、1880年頃から紙製が登場し、日用品や保険会社などの広告付きしおりも大量に発行されるようになった。