刑務官からいじめられた──そんな理由で日本に4つしかない「塀のない刑務所」の1つから逃げ出した平尾龍磨受刑者(27才)。3週間、150kmにわたる逃走中、一体どこでどう息を潜めていたのか。そのサバイバルのすべてを詳報する。
「中学生の頃から万引の常習犯で、高校に入ってからは車を盗んで警察とカーチェイスをしたという噂も聞きました。いつか大事件を起こすんじゃないかと心配していましたが、まさかこんな形で世間を騒がせるとは…」
23日間に及ぶ逃走劇の末、4月30日に広島市内で確保された平尾受刑者の地元・福岡の知人は、そう驚きを口にした。
窃盗や車上荒らしなど約120件の罪で2013年に逮捕、5年6か月の実刑判決を受けて服役中だった平尾受刑者は昨年12月に「松山刑務所 大井造船作業場」(愛媛県今治市)に移送された。
4月8日夜6時前の夕食後、平尾受刑者は作業場のフェンスを越えて脱走。1kmほど離れた住宅街で車を盗み、しまなみ海道を渡って向島(広島県尾道市)へと渡った。乗り捨てられた車が見つかったのは、夜8時半頃のことだった。
「向島に到着した平尾受刑者は、当初、本州にたどり着いたと勘違いして車を乗り捨てた。大都市の雑踏に紛れれば見つかりにくくなると考えたようですが、本州の1歩手前。周辺の警戒が強くなっているのに気づき、潜伏生活をスタートさせました」(全国紙記者)
翌9日、愛媛県警が逃走の疑いで指名手配。向島のドラッグストアで牛乳やスナック菓子を購入する姿を目撃された。
「島内にある空き家を転々としながら逃走。この間に現金やTシャツ、車の鍵、携帯電話など7件の窃盗事件が付近で発生していて、平尾受刑者によるものだと考えられています」(前出・全国紙記者)
特に島での生活の“拠点”としていたのが、ある別荘の屋根裏だった。布団などの生活用品、テレビのほか、トースターまで持ち込んでいた。
「施錠されていない窓を見つけて侵入し、2週間ほど過ごしたようです。別荘には食料が残されていたほか、電気やガスが通っており、テレビで自身の逃走劇をチェックしていた。その別荘に潜伏中、警察は付近の捜索もしましたが、屋根裏で息を殺していたようです」(警察関係者)
平尾受刑者の逃走中、警察はのべ1万5000人の捜査員を投入した。地元消防団なども加わった包囲網が迫るのを感じた平尾受刑者は24日、向島からの脱出をはかる。道路は検問が敷かれ、港も24時間体制で警察の目が光っていることをテレビで知っていた平尾受刑者がとったのは、「海を泳いで渡る」という仰天の方法だった。
「水深約10m、最も狭い部分で幅が200mほどの尾道水道でも、海は海です。1日に3~4回潮の流れが緩やかになるとはいえ、この時期はまだ水温も低いし、危なくて泳ぐのはほぼ不可能です。命がけですよ」(地元住民)
だが、追っ手を振り払おうと必死だった平尾受刑者は、闇夜に紛れ、着替えをポリ袋に入れて首や体に結びつけ、上下下着姿で1時間ほどかけて本州へと渡り切る。