【書評】『ジェンダー写真論 1991-2017』/笠原美智子・著/里山社/2700円+税
【評者】与那原恵(ノンフィクションライター)
写真とは、「生」の痕跡である。写真家がシャッターを切った瞬間から時が止まるように思えるけれど、写真そのものはその後も長い時間を生き、呼吸し、見るものたちと呼応してゆく。
本書は、写真を「ジェンダー」(社会的・文化的に形成された性)「セクシュアリティ」の視座から、主に写真表現の歴史を読み解いた。著者の思索と投げかけるさまざまな問いに触発されるのは、ごく当たり前のこととして受け取っていた事柄の中に、私たちが見過ごしている「社会」のありようにも目を開かせてくれるからである。
多くの「女性写真家」たちが活躍する現在、著者がジェンダーをテーマにするのはなぜなのか。もっとも、「男性写真家」という呼称が存在しないことを考えれば、このテーマが重要なことに気づく。
著者は日本の大学で社会学を、アメリカの大学院で写真を学んで一九八七年に帰国した。その前年に男女雇用機会均等法が施行された日本だが、美術館においてはフェミニズム、ジェンダーの視点が欠落していることを実感した。