映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、役者・石橋蓮司が黒木和雄、深作欣二、神代辰巳ら、異なる個性の映画監督との仕事での芝居の違いについて語った言葉をお届けする。
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一九七四年、黒木和雄監督の時代劇映画『竜馬暗殺』で、石橋蓮司は原田芳雄扮する竜馬の奔放さに苛立ちながらも付き従う盟友・中岡慎太郎を演じた。
「芳雄とはその二年前に知り合って非常に仲が良かったんですが、役者として現場でやるのは初めてでした。あいつの時代認識と俺の時代認識を真っ正面からぶつけられるという楽しみな気持ちで現場に臨んだんです。
ところが、最初の撮影から一発で『もう、ああ素晴らしいな、こいつ』ってなっちゃったんですよね。維新の話だから堅苦しく作ってくると思ったけど、とんでもない。龍馬をやるって役者にとってプレッシャーなんですが、彼流に物凄く自由奔放にやってきた。それが実にリアリティがあって。『お前がそうなら、俺はこうだ』ということで俺は少し硬派にいきました。漫才であり、夫婦みたいであり、二人でいる空間が面白くなれば、という形を考えていましたね。
黒木監督は役者に何も言わない人。自由にやらせます。忍耐強いというか、見届け人なんでしょうね。だから、何かいじくってやろうという気持ちにさせるんです。深作欣二さんだと『一緒に何か作ろう』という感じなんですが、黒木さんは上手く踊らされてる感じがします。俺も芳雄もね。それをジッと見ながら最終的に自分の一つの世界に領導していく。ですから、二人で好きに演じた場面を全てカットされたこともありました。
『ハサミはあなたが持ってるんだもんね』と思いながら、自由にさせてもらいました」
七九年の神代辰巳監督による映画『赫い髪の女』では宮下順子扮するヒロインに翻弄されるダンプ運転手を演じた。