朝6時40分、起床。ベッドや洗面所、トイレが完備された居室を出て、車椅子や徒歩で移動を始める。8時前には同世代の仲間と“仕事場”に集まる。加齢とともに身体機能の衰えを感じるが、それでも無理なくできる仕事内容だ。
作業の合間には介護福祉士の指導のもと、食堂で漢字の書き取りや簡単な計算を使った「脳トレ」と、体操のDVDを見ながらの運動を30分程度行なう。1日の仕事は午後4時過ぎに終了。午後5時過ぎからの夕食が終わると、その後は居室に戻っての余暇時間だ。ベッドに寝転びながらテレビを見て過ごし、午後9時に就寝──。老人ホームの話ではない。刑務所の受刑者の話だ。
『犯罪白書』(平成28年版)によれば、65歳以上の高齢者の検挙人数は4万7632人。20年前に比べて約3.8倍に増えた。それに伴い、刑務所内の高齢化も急速に進んでいる。刑務官を務めた経歴を持つ作家・坂本敏夫氏はこういう。
「人数だけでなく、高齢者の受刑者に占める割合がどんどん増えています。受刑者全体の数は、10年前に比べて約3割減っている。これは雇用環境の改善が主な理由だと考えられていて、働ける世代の犯罪は、仕事があれば減っていく傾向がある。変わらずに残るのは高齢の受刑者。今の刑務所は、老人福祉施設のようになりつつあるのです」
東京・府中刑務所では、受刑者に占める65歳以上の割合が、ここ10年でおよそ2倍に増えたという。結果、急務なのが認知症対策だ。法務省が2016年に発表した推計によれば、全国の60歳以上の受刑者の1割超にあたる1300人程度に「認知症傾向」があるとみられている。