先行きに暗雲が立ち込めた安倍政権の最大の政治利権と言えば「国土強靭化」、つまり公共事業だ。財政拡大はアベノミクス三本の矢の一つで、第2次政権発足以来の6年間、毎年、公共事業予算を大幅に増やしてきた。特に首相の取り巻きたちが群がって予算争奪戦を演じているのが整備新幹線だ。
3月末に成立した今年度予算で地元に巨額の予算を付けるのに成功したのは福井選出の稲田朋美・元防衛相と“パンツ大臣”こと高木毅・元復興相。2人は地元を走る北陸新幹線金沢―敦賀間の事業費として前年比910億円増の2250億円を獲得し、そればかりか敦賀から大阪までの新幹線延伸問題でも、当初有力だった米原ルート(事業費約5900億円)ではなく、事業費が3.5倍に膨らむ小浜・京都ルート(2兆700億円)への決定に大きな役割を果たした。完成は30年後。安倍政権が終わった後も地元に長く「巨大公共事業」というメシの種をつくった。
一方、加計学園問題で安倍首相をかばい続けた山本幸三・元規制改革相が目指すのは長崎新幹線の総事業費アップ。与党検討委員会の委員長を務める山本氏は、この6月にも長崎ルートの事業計画を見直して「全線フル規格(走行ルートの線路をすべての区間で通常の新幹線用に整備すること)」で建設するかどうかを決める。フル規格になればざっと6000億円の予算追加が必要になる。これも「財政バラマキをタブー視しない安倍政権のうちに事業拡大を決めておこう」という狙いが透けて見える。
ゼネコン談合が摘発されたリニア新幹線に至っては、安倍首相の“お気に入り官僚”と言われる迫田英典・元理財局長時代に国の財政投融資資金から建設費3兆円を「30年据え置き、10年払い、平均金利0.86%」という“財投始まって以来の好条件”で融資することを決めた。役人たちはいつ政権が倒れても、インフラ関連企業に仕事が回るように先手を打っていたわけだ。
他の大臣も「安倍政権の方針」を楯に利権確保に走っている。加藤勝信・厚労相がサラリーマンの残業代をゼロにする高度プロフェッショナル制度を創設する「働き方改革法案」の審議を急いでいるのも、自民党が支援を受けてきた財界から「高プロだけはこの国会でやっておいてほしい」と強い要望を受け、法案の成否に「自分の政治家としての将来」がかかっているからに他ならない。
※週刊ポスト2018年5月25日号