認知症の「介護」には様々な困難がつきまとう。介護施設の人員は不足し、自宅では「老老介護」の必要に迫られる。周囲が気付かぬうちに、認知症当事者が自宅や施設を抜け出して徘徊──そして、事故に巻き込まれたり、行方不明になってしまう例も後を絶たない。
だが、“塀の中”の景色は違う。約300人の受刑者のうち29%が65歳以上という山口県・岩国刑務所(女子刑務所)は、2年前から非常勤の介護福祉士を1人雇った。
「介護福祉士が受刑者個人の状況に合わせた支援を考えます。できる人には着衣の脱ぎ着をさせ、入浴が一人で無理なら椅子に座らせて必要な部分だけ手助けします。食事も嚥下しやすいメニューを提供するなど、担当者が専門研修を受けながら考えています」(岩国刑務所の刑務官)
府中刑務所では、オムツ交換や入浴の手助けを刑務官が自ら行なう。そのため刑務官は、特別養護老人ホームで研修を受けている。介護施設専門誌『あいらいふ』編集長の佐藤恒伯氏が指摘する。
「必要な介護はするが、自分でできることはやらせる、という考え方は評価の高い老人ホームのよう。認知症は生活リズムを保つのが難しく、放置すると症状が悪化する。ただ、刑務所のように起床や就寝、作業の時間をぴったり決めて生活させるのは老人ホームではできない。結果として、刑務所のほうがケアに適した環境になっているといえる」
徘徊を防ぐために、居室に外からカギをかけるホームの対応が問題視されることもあるが、刑務所ではそれが当たり前だ。さらに刑務所は医療も提供している。広島刑務所は「医療重点施設」に位置付けられ、敷地内に「医務棟」がある。刑務作業ができず入院が必要な受刑者を収容したり、作業しながらも治療が必要な受刑者が利用する“塀の中の診療所”だ。