【著者に訊け】柚月裕子氏/『凶犬の眼』/KADOKAWA/1600円+税
このほど白石和彌監督、役所広司主演で映画化された柚月裕子作『孤狼の血』は、自身大ファンだという映画『仁義なき戦い』や、現実の広島抗争をモチーフとしたことでも知られる。
「もちろん暴力を肯定するつもりはなく、例えば原爆のキノコ雲の映像から始まる『仁義~』を、私は向こう100年、草木一本生えないと言われた広島で人々が懸命に生き抜いた物語として観てきました。今でもあの緑の美しい町を歩くと、私の故郷である被災地もきっと大丈夫、と少し思うことができるのです」
シリーズ第二作『凶犬の眼』は、呉原東署捜査二課の悪徳刑事〈大上章吾〉が前作で謎の死を遂げ、彼の相棒〈日岡秀一〉が比場郡城山町の駐在所に飛ばされた平成元年から始まる。が、地元〈仁正会〉内部の〈加古村組〉と〈尾谷組〉の全面抗争を見届けた日岡も本作では一駐在に過ぎず、〈わしは捜査のためなら、悪魔にでも魂を売り渡す〉と言って違法捜査にも手を染めた大上亡き今、果たして事件など起きるのか?
因みに呉原は呉を、城山は県北の山村を模した架空の町だ。『孤狼の血』巻末には抗争後の勢力図や、日岡の平成16年までの処遇が年表形式で記され、本書及び現在連載中の『暴虎の牙』をもって、シリーズ三部作となる予定だという。