近年、企業博物館の新規オープンやリニューアルが盛んだ。その企業博物館は、1000か所前後もあるという。なぜ企業は博物館を作るのか。凸版印刷が開設した「印刷博物館」の館長で、産業文化博物館コンソーシアム座長の樺山紘一氏が解説する。
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現在、日本には大小合わせて、およそ1000ほどの企業博物館があるとされています。これは世界的に見ても際立った数でしょう。
多くの企業が博物館を設立した理由には、高度成長期を終え、バブル崩壊を経験したことで「自分たちの文化や生き方について再考すべきだ」という機運が高まったことが挙げられます。そのタイミングと重なるように、明治期に創業した大企業が軒並み100周年を迎えたのも大きい。2000年前後に、多発的にいくつもの企業博物館がオープンしました。私どもの印刷博物館も、その時期に設立されました。
そんな中、博物館同士の経験交流や連携を目的として、2008年に産業文化博物館コンソーシアム(COMIC)を創設しました。日本を代表する巨大博物館と並んで、小規模のものでも、たとえば江戸時代から紅を専門に扱う伊勢半本店の「紅ミュージアム」など、実に興味深い展示を行なっている企業はたくさんあります。どんな産業にも長い歴史があり、それぞれの企業が誇る傑作がある。震災や戦争を乗り越えて、そんな品々が展示されているのを見ることができるのは感動的ですらあります。
国営の大規模な博物館と比べ、民間企業が運営する企業博物館の見どころを強調するなら、あらゆる展示物が切実な産業活動の結果として生まれたものである、という点でしょう。企業が作り出したひとつひとつの製品には、リアルな失敗談や成功体験、そこに至るまでの血の滲むような努力、そんな物語が詰まっているのです。