【著者に訊け】柚月裕子さん/『凶犬の眼』/KADOKAWA/1728円
【本の内容】
時は平成2年。日本最大の暴力団組織・明石組が4代目の座をめぐって分裂。組を割った心和会と明石組の「史上最悪の暴力団抗争」に日本中が震撼していた。そうした中、前作『孤狼の血』では新人ながら所轄署暴力団係に配属され、上司・大上省吾とともに、ヤクザとの熾烈な闘いに挑んだ日岡秀一は田舎の駐在所にいた。しかし、平穏な日々はある男との遭遇によって一変する。敵対組長を射殺して指名手配中の国光寛郎だった。国光は日岡に言う。「もう少し時間が欲しい」。国光の直訴に日岡は──。
シリーズ第1作の『孤狼の血』が映画化され、現在、全国公開中である。
「小説が映画になるというだけでも宝くじに当たるようなものなのに、あの三角マークの、『仁義なき戦い』シリーズの東映さんがつくってくださるなんて、前後賞まで当たったみたいで、作家としてすごく幸せです」
『弧狼の血』では、暴力団対策法施行前の広島を舞台に、違法捜査もためらわない大上刑事と、彼の下に配属された新米警官日岡のコンビが暴力団の犯罪に挑んだ。
第2作となる『凶犬の眼』では、日岡は田舎の駐在所に飛ばされている。偶然、出会った男が指名手配中の暴力団組長国光であることを知り、ある決断をすることになる。日岡は、国光を逮捕して現場の刑事に戻ることができるのか。緊張をはらんだ国光との関係性が読みどころの1つである。
「女性同士の関係って、同じものが好きだとか価値観が同じだとか、共感を求めがちだと思うんですが、男性と男性って、10のうち9、違っていても、いちばん大切な部分がつながっていれば信頼できるというところがあって、昔からいいなと思っていました。今回はそういう、男が男に『惚れる』気持ちを書いてみたかった」
過去の山一抗争をほうふつさせる、暴力団同士の激しい抗争事件も描かれる。
「ノンフィクションや当時の新聞記事など資料はものすごく読みますけど、10調べてせいぜい1割か2割使うかどうか。知ってて書かないのと知らないで書けないのでは全然違うと思うので、できる限り調べて書きます。そのぶん、時間がかかり、担当編集者を泣かせて申し訳ないんですが」
章の冒頭に事件を描く雑誌の記事を引用、続けて真相が語られるスタイルを取る。外形的には同じでも、語られる内実はまったく異なって見える。その落差が圧巻だ。
「事実と真実は違う。別の作品でもテーマにしていることですが、事実は事実としてあるけれど、その中に含まれている動機の部分や、真実は、それだけではわからない。別のところにあるのかもしれない。そのことを表したくて、このスタイルを選びました」
●撮影/横田紋子、取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2018年5月31日号