音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、「笑点」の若手枠のひとり、林家たい平が隔月で続ける独演会について解説する。
* * *
2002年に横浜市が開設した横浜にぎわい座は客席数391(1階席280・2階席111)の、とても観やすい寄席。魅力的な企画興行が毎日のように行なわれ、東京から足を運ぶ落語ファンも多い。僕もオープン当初から足繁く通った。
この横浜にぎわい座で林家たい平が2004年から隔月開催で続けている独演会が「天下たい平」。ここでたい平は毎回必ずネタ下ろし、もしくは蔵出しの演目を披露する。「笑点」人気に胡坐をかかず、14年以上それを続けているのは立派だ。
4月8日に行なわれた第86回公演でのネタ下ろしは『しじみ売り』。義賊・鼠小僧次郎吉を主役とする講談の一部を人情噺にしたもので、古今亭志ん生が得意とした。今では立川志の輔が、志ん生とはまったく異なるオリジナル演出で磨き上げて十八番としている。
たい平の『しじみ売り』は志ん生の系統。汐留の船宿にいた次郎吉が、病気の姉と母を養うためしじみを売りに来た少年の身の上話を聞き、自分が3年前、箱根の宿屋でイカサマ師に嵌められた旅芸者夫婦を救うべく、御金蔵から盗んだ小判を彼らに恵んだことが仇となったことを知る。その旅芸者こそ少年の姉、連れの男は刻印のある小判を使おうとしたところをお縄になり、金の出所を明かさず牢に入れられたまま。少年の姉と母が病の床に就いたのも、すべて自分のせいだと悔やむ次郎吉……。