医師の年齢と治療の実力には因果関係はあるのか? 統計調査によってこの疑問に対する回答が出た。
論文の著者は、ハーバード公衆衛生大学院の津川友介医師(現・UCLA医学部助教)。津川氏の研究では、アメリカの病院に勤務する4万5826人の外科医の手術を受けた89万2187人の症例(2011~2014年)を対象に、医師の年代ごとに患者の致死率を比較している。
その結果、外科医の年齢が40歳未満では、患者の致死率は6.6%、40~49歳では6.5%、50~59歳では6.4%、60歳以上では6.3%だった。つまり、医師が高齢になるほど致死率が低くなったのである。漫画『ブラックジャックによろしく』のモデルとして知られる昭和大学横浜市北部病院の心臓外科医、南淵明宏教授はこう語る。
「外科医で重要なのは、“失敗したら死なせてしまう”“人殺しになってしまう”という恐怖と対峙する『胆力』。自分を失わず、どれだけ冷静にやれるかで、経験を積んだほうが絶対的に有利なんです。
最も冷静さを失う状況は、出血です。目の前が血の海になって、何があるか見えなくなる。出血が続けば血圧が下がって死んでしまうから、血の海を吸引しながら出血点を見つけなければならない。そういう状況になったときに場数が少ない人は次の手を打てない。だから、修羅場をくぐってきた医師は強い。それはやっぱりベテランですよ。
もっとも、最近は外科を志望する医大生が激減し、外科は空洞化して、高齢医師が増えている状況もあります」