かつてプロ野球では「人気のセ、実力のパ」といわれた時代があった。裏を返せばパ・リーグには人気がなかったという意味でもある。球場は閑古鳥が鳴き、テレビ中継はない。客席がガラガラであるあまり、ロッテの本拠地・川崎球場観客が七輪を持ち込んで焼肉をしたり、流し素麺をしながら観戦していたこともあったという。近鉄、中日、西武で活躍した金村義明氏が、当時のパ・リーグの悲哀を語る。
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球場に来ているのにグラウンドを見ていないお客さんもいた。三塁側は「川崎競輪」と隣接していたので、レース時間になるとグラウンドに背を向けてフェンス越しに競輪を観戦するんです。スポーツ紙も野球面じゃなくてレース面を見ている。競輪の合間に野球観戦をしているような状態でした。
あとはとにかくボロかったなァ。どこの球場もオンボロでしたが、中でも「三大汚くてボロい球場」は川崎、藤井寺、日生(日本生命)。そのうち2つが、我らが近鉄の本拠地と準本拠地でした。
特に酷いのは藤井寺。まず本拠地なのに当初はナイター設備がなかった。それに汚れ具合もすごくて、大物メジャーリーガーのドン・マネーは「ロッカールームが汚すぎる」と言って1か月で帰国しました。
ある時、藤井寺に映画の撮影が入ると聞いたので、どんな映画だろうと喜んでいたら、刑務所のトイレのシーンを撮影していてガッカリしたのを覚えています。
【プロフィール】かねむら・よしあき/1963年兵庫県生まれ。1981年報徳学園のエースとして夏の甲子園優勝。同年ドラフト1位で近鉄入団。中日、西武を経て1999年現役引退。野球解説者として活躍中。
※週刊ポスト2018年6月1日号