簡素で格安な葬儀が人気となっている。参列者を集めないタイプの「家族葬」、葬式をせずダイレクトに火葬する「直葬」、そして墓を建てず遺骨を海に撒く「散骨」、遺骨を宅配便で寺院に送って供養してもらう「送骨」……では、簡素な葬儀が人気となっている背景とは? 浄土宗僧侶でジャーナリストの鵜飼秀徳氏が分析する。
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なぜ急激に葬送が簡素化しているのだろうか。葬送は、長寿化や核家族化など社会構造の変化の影響を多分に受ける。筆者は70歳前後の、いわゆる団塊世代の意識に注目した。現在、葬送の担い手になっているのがこの世代だ。彼らは最大6人もの葬式に直面している。
つまり団塊世代夫婦の両親が90歳を超え、まだまだ健在であるケースがある。加えて、団塊世代自身も終活の準備に入っている。葬式の平均費用は150万円程度。今後、最大6人の葬式の準備をしなければならないとすると、900万円もの費用が必要だ。老後の蓄えに加えて、さらに死後の費用を捻出するのは容易なことではない。
そうしたニーズに合わせるかのごとく、安価で簡素な葬式プランが続々出てきている。では、家族葬や直葬を選べば、本当に費用を抑えられるのだろうか。
筆者が家族葬と一般葬のコストを試算してみたところ、首都圏で30人規模の家族葬(80万~130万円程度。寺院への布施を含む)と、100人規模の参列者を見込む一般葬(90万~160万円。同)では、弔問客が香典を持ってくる一般葬のほうが、支出が圧縮される分、割安だった。それどころか地域や葬儀規模によっては黒字になる可能性も。家族葬や直葬を選ぶと、コストが抑えられるというのは安直な考えなのである。
【プロフィール】うかい・ひでのり/1974年、京都市生まれ。成城大学卒業後、新聞社記者、日経BP社を経て2018年に独立。主に「宗教と社会」をテーマに取材を続ける。著書に『寺院消滅』、『無葬社会』(いずれも日経BP刊)など。近著に『「霊魂」を探して』(KADOKAWA刊)。現在、浄土宗正覚寺(京都市右京区)副住職、東京農業大学非常勤講師、浄土宗総合研究所嘱託研究員。
※SAPIO 2018年5・6月号