病気への対処は「早期発見」「早期治療」が鉄則である。しかし年齢を重ねるにつれ、必ずしもそうとはいえないケースが出てくる。
たとえば「がん」の場合、「手術」は最も基本的な治療方法だ。「全がん協生存率調査」(千葉県がんセンター研究所がん予防センター公表)によれば、大腸、胃、肺など主ながんで手術の有無による60代患者の5年生存率を比較すると、ほとんどの場合「手術あり」が上回っている。
しかし、手術はがんを除去できる一方で、正常な部分にも損傷を与えてしまい、合併症などを起こすリスクがある。また、放射線や抗がん剤を用いた治療についても、体力を著しく奪ってしまう可能性は否定できない。
高齢者が残りの人生のQOL(生活の質)について考えたとき、「あえて根治を目指さないこと」は重要な選択肢となり得るのだ。医療経済ジャーナリストの室井一辰氏が指摘する。
「これまで医師にとって『患者を治すこと』は最重要課題であり、たとえ患者が高齢だとしても積極的に治療を施すことが当たり前でした。
しかし現在では、病気の種類や罹患した部位によって、手術や治療の有無で大きく生存率が変わらないものがあることがわかってきている。無駄な医療を省くことが高齢者への負担を減らすという考えが広がってきています。年齢に応じた治療成果の検討についての研究も増えている」
薬の服用についても同様のことがいえる。年齢を重ねるほど飲む薬は増えていくものだが、その一方で、肝臓や腎臓の機能は低下していく。すると代謝や排泄の能力が落ちて、薬が効きすぎてしまい、副作用のリスクが高まることがある。高齢者ほど薬の服用には慎重でなければならない。
ただ「治す」ことばかりに執着していると、コストがかかるうえに無駄に体力を奪われ、日常生活に別の支障が出てくることもある。病気を撃退する代償として、「健康寿命」を縮めることになりかねない。
※週刊ポスト2018年6月8日号