病気になったら一刻も早く発症前の健康状態に戻したい──そう考えるのは“当然”であっても、“正解”とは限らない。治療を受けるか否かを判断する際に重要なファクターとなるのが「年齢」だ。病気によっては加齢とともに進行が遅くなったり、治療の副作用が大きいため「あえて治さない」という決断が意味を持つケースがある。
薬の服用についても同様のことがいえる。年齢を重ねるほど飲む薬は増えていくものだが、その一方で、肝臓や腎臓の機能は低下していく。すると代謝や排泄の能力が落ちて、薬が効きすぎてしまい、副作用のリスクが高まることがある。高齢者ほど薬の服用には慎重でなければならない。
服薬リスクが指摘されるのは糖尿病だ。一般的に糖尿病は、血糖値の指標であるHbA1cが6.5以上の状態を指す。しかし、ある程度の年齢になったら、この値を目指すとかえって健康を損ねるケースがある。医療経済ジャーナリストの室井一辰氏が指摘する。
「加齢などで代謝が低下した患者が糖尿病薬を服用すると、一般的な処方量であっても血糖値が低下しすぎてしまい、低血糖になる怖れがあります。すると意識障害を起こしたり、脳や筋肉の栄養不足で認知機能や運動機能が低下するリスクがあります。
そもそも、薬剤を使って厳しく血糖値を低下させることがメリットにつながるというエビデンスはありません」
2013年の米国老年医学会の発表でも、「65歳を超えた人のほとんどは、血糖値の指標であるHbA1cが7.5%未満であれば投薬を避けたほうがよい。穏やかな管理が一般的には望ましい」と指摘されている。
※週刊ポスト2018年6月8日号