早期発見・早期治療が命を救うイメージの強い“がん”だが、なかには例外もある。「根治しなくていいがん」の代表が、60歳以上が患者の9割を占め、「高齢者のがん」と呼ばれる前立腺がんだ。医療経済ジャーナリストの室井一辰氏が指摘する。
「末期の場合は別として、前立腺がんは命にかかわらないケースが多く、進行も遅い。このため米国放射線腫瘍学会は、『前立腺がんは積極的な治療を伴わない経過観察が可能』との見解を出しています」
2012年に米国で発表された調査では、リスクの低い「限局性前立腺がん」の患者731人を「手術を受けた群」と「手術せずに経過観察した群」に分けて16年間観察した。
すると死亡率は手術群47.0%、経過観察群49.9%となり明確な差はなかった。また、手術した患者のほうが尿失禁など手術に関する有害事象の頻度が高く出たという。
前立腺がんの手術は排尿障害や勃起障害などを起こす可能性が指摘されているため、QOL(生活の質)を考慮すれば手術の必要性は高くないとされる。北品川藤クリニック院長の石原藤樹医師がいう。
「検査で前立腺がんが見つかっても、当面の間は無治療で構わないことが多い。ただし、腫瘍マーカーで特異なたんぱく質の値であるPSA値を定期的に測定し、触診やエコー診断などの経過観察を定期的に行なうべきです」