話題の連続テレビ小説『半分、青い』のヒロイン・鈴愛は少女漫画で得たエネルギーで上京。自身も漫画家を目指す。それほどまでに、少女漫画とは生きるエネルギーを与えるものだ。都内在住の主婦・貴子(53才)も、鈴愛と同様。少女漫画と共に成長してきた一人だ。 貴子の思い出と共に、少女漫画を振り返ってみよう。
1990年、25才の貴子は、デザイナーとしてアパレル会社で働いていた。入社を希望した理由は、デザイン業界を舞台にした少女漫画『デザイナー』(一条ゆかり作)や『あこがれ』(細川智栄子作)に魅了されたから。
当時、金曜日は“花金”と呼ばれ、若者たちは夜の街へと繰り出した。しかし、ある夜、貴子は金曜日にもかかわらず会社にいた。やってもやっても仕事が終わらない上に、彼氏にも会えない寂しさから、辛抱できなくなり、ついに彼女はカバンからツラいときに、いつも読んでいる愛読書を取り出した。
文明崩壊後の日本で、新しい国をつくろうと奮闘する少女・更紗の姿を描いた『BASARA』(田村由美作)だ。付箋が貼られたページにはこんなセリフがあった。
《もうダメかもしれないと思った時に、座り込んではいけませんよ。一度座り込んでしまったら、二度と立てなくなりますからね。その時は、死んでゆく時だと思いなさい。もうダメだと思った時こそ、立ちなさい》
この言葉を胸に刻んだ貴子はそっと漫画を閉じ、再び仕事に集中した。1990年代に入ると少女漫画のヒロインは大きく姿を変える。少女漫画研究家・藤本由香里さんが解説する。
「多様な作品が生まれた1980年代を経て、1990年代は等身大のヒロインが戦う“戦闘美少女”の時代となりました。その象徴が『美少女戦士セーラームーン』(武内直子作)や『BASARA』だった。学園ラブコメの要素を残しつつ、いじめに立ち向かう強いヒロイン・牧野つくしを描いた『花より男子』(神尾葉子作)も同系統の作品でしょう」
とくに「F4」と呼ばれるさまざまなタイプのヒーローが代わる代わるヒロインを助ける『花より男子』は日本中の乙女たちの胸をときめかせた。
貴子自身はとうの昔に“学園”は卒業していたが、高卒で会社に入社してきた新入社員の女の子に勧められて『花より男子』を読み始めると、高校時代を思い出して夢中になった。職場でお局様にイヤミを言われてしょげていると、いつも励ましてくれる爽やかで優しい先輩のことを陰で「花沢類」と呼んで後輩にあきれられたほどだった。
◆1980年代とどう変わったか