胃がんの手術に成功したHさん(55)が、長年勤めた会社を辞めたのは、食事の摂り方の変化を周囲に納得してもらえなかったからだった。
「体調は悪くありませんでした。ただ、胃を切除したので、一度に『一人前の食事』を摂ることができなくなったのです。そのため、私は複数回に分けて昼食を済ませていました。上司にはその旨を説明し、了解をもらっていましたが、どうにも社内の目が気になる。ほかにも、胃がんの後遺症で“ダンピング症状”があったため、結局、退職願を書きました」
ダンピング症状とは、胃の切除後、食べ物が短時間で小腸に流れ込み、めまいや冷や汗、しびれやだるさが襲う症状をいう。
健康増進クリニック院長の水上治氏は、「がんの手術は、常に後遺症とセットだと考えなければならない」と警鐘を鳴らす。
「がんと宣告されると、人はパニックに陥ります。生きるために手術を選択するのは当然ですが、治すことに一所懸命になりすぎると、たとえ医師が説明しても、後遺症には頭が回らない。手術を受ける時に後遺症があると知っているかいないかでは、その後の暮らしを支える覚悟や備えが変わってきます」
現実は厳しい。大病に打ち克ったその先に、また別の苦しみが待っていることもあるのだ。
※週刊ポスト2018年6月15日号