◆会社のコンプライアンスのためにどうするか
──普通のサラリーマンは、社長になかなかそこまで言えないですよね。
田端:それを言うのが私の仕事ですから。もちろん自分の保身とか、自分の給料を上げるために言うんだったらダサいですが、心から会社や前澤のためを思っているわけだから。それで万が一、クビになっても、刺し違える相手にとって不足はないじゃないですか。
──前澤さんと田端さんの間には、衝突もあるわけですよね。
田端:100%意見が一致しないからこそ、僕が会社にいる意味があるんです。前澤は、一度やろうと言い出したことを思い留まることはあまりないですが、僕の言葉で、45度くらい角度が変わることはあるかもしれない。タイミングをずらすとか、文脈を変えるとか、そういう変化が。基本的には、非常に聞く耳をもってくれるし、素直なところもある社長です。
──田端さんは、いつでも転職できる、次に行くところがあるという自信がおありだから、イエスマンになっていない?
田端:そもそもサラリーマンにとって、転職は「当たり前の選択肢」です。僕の考えでは、会社のコンプライアンスのために最も有効なのは、制度や手続き論じゃないんです。いつやめても路頭に迷わないような人材で幹部や部門責任者を固めること。銀行でも大手メーカーでも、今は年収数千万円もらってるけど、新卒から入って出世したその会社から一歩出た瞬間にどうなるかわからないような人は、会社の経営にコンサバティブ、あるいは消極的にならざるを得ない。
いま、大手企業のデータ偽装や不正が次々と明るみに出ています。そんな悪事の片棒を担がされるなら、私はさっさとやめて、同業他社へ行きますと言える人間が要所要所にいることこそ、本質的な意味で、会社のコンプライアンスにつながると思います。
【プロフィール】田端信太郎(たばた・しんたろう)
1975年石川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。NTTデータを経てリクルートへ。フリーマガジン「R25」の立ち上げや、広告営業の責任者を務める。2005年、ライブドアに入社し、livedoorニュースを統括。ライブドア事件後は執行役員メディア事業部長に就任し経営再生をリード。さらに新規メディアとして、BLOGOSなどを立ち上げる。2010年春からコンデナスト・デジタルへ。VOGUE、GQ JAPAN、WIREDなどのWebサイトとデジタルマガジンの収益化を推進。2012年、NHN Japan(現LINE)執行役員に就任、広告事業部門を統括。2014年、上級執行役員法人ビジネス担当に就任。2018年3月から株式会社スタートトゥデイ コミュニケーションデザイン室 室長。
●撮影/内海裕之