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紀州のドン・ファンより凄い 「パリの日本人蕩尽王」伝説

私財をパリで使い果たした薩摩治郎八

「紀州のドン・ファン」と呼ばれた和歌山県の実業家・野崎幸助氏が自宅で倒れ、その後死亡した事件が注目を集めている。野崎氏は酒類販売業や不動産業で50億円とも言われる資産を有する富豪で、美女4000人に30億円もの大金を貢いだことを公言していた。

 何ともスケールの大きなカネの使い方が話題を呼んでいるが、歴史を紐解けば上には上がいる。戦前には、「ひたすらカネを蕩尽する」というただそれだけで、世界に名を轟かせた日本人がいた。その名は薩摩治郎八。商人として大成功した薩摩治兵衛の孫として生まれた。薩摩は裕福な実家の資金によって1920年代のパリに居を構え、現在の価値にして800億円ともいわれるお金を湯水のごとく浪費し、「東洋のロックフェラー」「バロン薩摩」として名を馳せたのである。

 ライフネット生命創業者にして立命館アジア太平洋大学会長である出口治明氏の編著『戦前の大金持ち』(小学館新書)には、薩摩治郎八の数々の伝説が書かれている。華族出身の妻の千代子に、無際限にカネをかけて着飾らせ、高級紙の一面を飾らせる。藤田嗣治をはじめとする日本人画家のパトロンとなり展覧会を開き彼らを有名にする。1929年、2億円(現在の価値で約40億円ともいわれる)を投じ、パリ国際大学都市で「日本館」という豪華絢爛な学生寮を建設する──。伝説は挙げればきりがない。

 ところが、薩摩の栄華は続かない。私財を完全に使い果たして、没落して日本に帰ることになるのだ。戦後は浅草に住み着き、ストリップ小屋の常連となって、浅草座に出演していた踊り子と再婚。74歳で亡くなるまで彼女の郷里である徳島で暮らしたという。一見落ちぶれたように見える彼の晩年を、しかし出口氏は「幸せだったのではないか」と評する。

〈お金は使うためにあると思っている人は、使ってしまえばなくなってしまうことも同時に理解しています。お金に執着がないので、なければ使わないだけ。全く平気でいられるのです。その意味で彼はお金を失うことに怯えない人生を送った。

 彼の晩年は元踊り子のお針子さんに養ってもらったようなものですが、「自分はやりたいことをやりたいようにやってきたのだから、それでいいんだ」とさばさばとしていたのではないでしょうか。

 こうした薩摩治郎八の生き方は、現代を生きる僕たちにも多くのことを教えてくれます〉(出口治明・著『戦前の大金持ち』より)

 その死後も、パリで薩摩の援助を受けた日本人画家たちが活躍を続けている。

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