【著者に訊け】広野真嗣氏/『消された信仰 「最後のかくれキリシタン」──長崎・生月島の人々』/小学館/1500円+税
そのヨハネ像を目にした時の印象は一言、「なんじゃこりゃ?」だったという。
「祖父が牧師、父はパイプオルガン奏者というクリスチャン一家に育った私にとり、若きイエスに洗礼を授けたヨハネは、野性的な聖人像が定番なんです。ところが1999年に出た古い聖画の写真集『かくれキリシタンの聖画』で見たヨハネ像は、どう見てもちょんまげに着流し姿の日本人。本書の表紙にもある漫画のようなヨハネを拝む現場を、一度見たくなったんです」
こうして長崎県の西端、生月島(いきつきしま/平戸市)を訪れた広野真嗣氏は、その聖画を御前様と崇め、オラショという独特の祈りを口伝てに伝えてきた人々の姿に言葉を失う。彼らは16世紀以来の禁教政策下で弾圧された信者の末裔であり、解禁後も先祖代々の信仰を往時のまま守り抜く生月は、まさに奇跡の島だったのだ。
だが今月24日からの審査で、世界遺産に登録される見通しの「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」では、生月沖の聖地が一部採用されたに過ぎず、島の名前はなぜか消されていた。本書『消された信仰』は、その謎の解明に挑む。
ここに長崎県が遺産登録に向けて作成したパンフレットがある。一つは2014年、一つは2017年付の改訂版だが、前者に〈その伝統は、いわゆる《かくれキリシタン》によって今なお大切に守られています〉とあった文章が、なぜか2017年版では〈現在ではほぼ消滅している〉と、真逆に書き換えられていた。